著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<36>撮るときに情が強いからプリントでは情をなくしたい

公開日: 更新日:

 昔、森山大道さんと二人で、沖縄の国際通りを一緒に撮りながら歩いたことがあるんだよ。ワークショップ写真学校で沖縄に行ったときね。その頃の国際通りは車も通らなかった。一緒にお風呂入って、森山さんのヌードを撮ったりしたことがあるんだ。(「ワークショップ写真学校」は、1974年に東松照明〔写真家〕の呼びかけに応じて、荒木経惟、森山大道、細江英公、深瀬昌久、横須賀功光ら第一線の写真家が設立に参加、講師となり、寺子屋形式で写真教室が開講され注目を集めた写真学校。76年に閉校。荒木はその後77年まで「荒木経惟私塾」を開設)

 森山さんは、暗室でも撮ってる、1枚の写真で二度も三度も撮ってるって感じがするんだよね。ワークショップ写真学校のときに、森山さんと一緒に暗室に入ったことがあるんだけど、森山さんが1枚焼いてる間に、オレは10枚ぐらい焼いてさ。オレはプリントするときにはクールになるからね。撮るときに情が強いから、プリントでは情をなくしたいんだ。森山さんはね、撮るときに無情になるから、プリントのときに情が入って、ちょうどいいんだよね。

オレの写真はおしゃべりしすぎ

 オレの写真は、おしゃべりしすぎだけど、森山さんは、しゃべりが少ないからね。で、相手を喜ばしてあげようとか、そういうのは思ってないからね。

 森山さんは、わかってさ、ほっつき歩いてるんだよね。野良犬にならなくちゃダメだ、なるというね。人間から外れていっちゃうというか。あの人、恥ずかしがりやだからね。人間から外れていっちゃう、そうじゃなきゃダメだ、動物でなくちゃ、というようなのを持っているんだよ。本能的に。森山さんは、自虐的におんなじ表現方法だから、場所を変えればいいって、動いているって言ったりするじゃない、わざと。そうじゃなくて、どうしてもね、野良犬にならざるをえないんだよ、本能が。でも、そのことが、一行の素晴らしい言葉より、なにかを捉えてるっつうか、発言している。だから続くんだよね。ここんとこずーっと、見るほうが手を切らないじゃない、いつまでも。森山さんの写真、とくに海外ですごいだろ。外人のほうが言葉なしで通じるんだよ。ものすごい文字よりさ、通じるというのがなんかあるんだろうな。

(構成=内田真由美) 

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    米倉涼子“自宅ガサ入れ”報道の波紋と今後…直後にヨーロッパに渡航、帰国後はイベントを次々キャンセル

  2. 2

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 3

    彬子さま三笠宮家“新当主”で…麻生太郎氏が気を揉む実妹・信子さま「母娘の断絶」と「女性宮家問題」

  4. 4

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  5. 5

    ヤクルト池山新監督の「意外な評判」 二軍を率いて最下位、その手腕を不安視する声が少なくないが…

  1. 6

    新型コロナワクチン接種後の健康被害の真実を探るドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」を製作した大西隼監督に聞いた

  2. 7

    違法薬物で逮捕された元NHKアナ塚本堅一さんは、依存症予防教育アドバイザーとして再出発していた

  3. 8

    大麻所持の清水尋也、保釈後も広がる波紋…水面下で進む"芋づる式逮捕"に芸能界は戦々恐々

  4. 9

    “行間”を深読みできない人が急増中…「無言の帰宅」の意味、なぜ分からないのか

  5. 10

    万博協会も大阪府も元請けも「詐欺師」…パビリオン工事費未払い被害者が実名告発