菅首相を“イジる”映画「パンケーキを毒見する」内山雄人監督 「政治バラエティーだと思って見てほしい」

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内山雄人(映画「パンケーキを毒見する」監督)

「叩き上げ」「令和おじさん」「パンケーキおじさん」――。世間がこんなイメージを抱く菅首相は一体、どんな“スガオ”を隠しているのか。その核心に迫るドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」が、30日に公開された。時の権力者を相手にした取材は難航を極め、関係者からはNG続出。マスコミが政府の広報機関に落ちたと言われる時代に、作品に込めた思いは何なのか。メガホンを握った内山雄人監督に聞いた。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

 ◇  ◇  ◇

 ――「菅首相を“イジる”映画」と自身のツイッターで銘打ってますね。

 カッチリした政治ドキュメンタリーを作るには到底時間が足りなかったので、面白く見せることに重点を置きました。テレビのバラエティー番組を手掛けてきた経験もあるので、菅さんを風刺したり、イジったりして「政治って面白い」「こんなおかしいことが今の日本で起きてるのか」とか、伝わればと思ったのです。

 ――試写の反響はどうでしたか。

 映画を見慣れている人の中には「こんなものか」といった感想を持つ人もいたり、ユーチューブを見慣れた型にハマらない若い世代には難しくなく、笑える新しいスタイルのドキュメンタリーだと楽しんでもらえたり、と賛否はバラバラです。見ていただく人には、できればハードルを上げずに「政治バラエティー」だと思って笑ってほしい。

 ――閣僚らの言動をアニメーションを使い、ユーモアを交えて伝える場面が印象的でした。

(エグゼクティブプロデューサーの河村光庸さんから)監督にと声が掛かったのが、昨年10月半ばぐらい。しかも7月末公開のスケジュールは固まっていたので、製作期間は実質、半年もありませんでした。ドキュメンタリーではありえない条件なので、多くの映画監督に断られ、7番目に僕に回ってきた(笑い)。半年しかない中で、できることは何かを発想することから始めました。とはいえ、菅さんを直接撮れるわけではないし、関係者のインタビューで埋めていくだけでは成立しないなと。映像になるものは何か、苦労しながら探し続けました。

■「政治への不信感を可視化できれば」

 ――むちゃな提案をよく引き受けましたね。しかも、映画は初監督です。

 テレビ番組の監督をやってきて、映画製作の話を何度かいただいたこともあったんですが、年齢的にもラストチャンスだと。しかも、政権モノを扱うのは報道畑の仕事だから、制作会社にはまず回ってこないんですよね。逆にワクワクしたというか、やってみること自体、新たなステージに立つようなものでした。ここ数年、政治に対する不信感もあったので、それをちゃんと可視化できれば視聴者に影響を与える作品ができるかもしれない、と思いました。

 ――不信感というと?

 今春から大学生になった娘がいるのですが、高校に入学した途端、大学入試改革に振り回された。大学受験のために資格・検定試験をいくつも受けたけれどドタバタの末に新システムの導入が見送られてしまった。どれだけ政治に翻弄されたかを目の当たりにして、政治のミスやおかしなことが実際に起きていると実感しました。10年、100年先の国の姿を考えているとはおよそ思えない政治判断を下す人が、ここ何年も政治を動かしている感じがします。

 ――菅首相の国会答弁の様子も劇中に盛り込まれていました。

 国会中継が実はこんなに面白い、笑えるんだぞってことに気付いてほしいという思いからです。どれほど滑稽なやりとりが国権の最高機関で起きているか、議員や官僚といった国を動かす中枢にいる人が「こんなもんかよ」っていうのを知ってもらいたい。映画の前半に笑える要素があり、後半に向かうにつれ、この国では怖いことが起きていると気付いてもらう。最後は「やばいな、この国」っていうふうに、見ている人の気持ちが変わっていくといいですね。

菅さんは中身が詰まっておらず、どこかスカスカ

 ――菅首相の“スガオ”に迫ることができましたか?

 菅さんに対する直接的な批評を劇中のナレーションに託さなかったのは、僕はどうこう言う立場ではないからです。ただ、映画を作ってたどり着いた自分なりの答えは、取材者の皆さんの言葉を借りれば、菅さんは中身がギッシリ詰まったような方ではなく、どこかスカスカしている。国家観をほとんど持ち合わせていなかったり、人気や権力を守りたいがゆえに取り繕っていたり、そんな印象です。

 ――取材NGが続出したとか。

 いわゆる菅グループの「ガネーシャの会」の議員らに取材を申し込んだのですが、誰にも応じていただけませんでした。あまりにも断られすぎて、途中から面白くなってきたほど。それでもう、ネタにしちゃえと。秘書に電話やメールの取材依頼をしても一切何の返事もないから、絶対に断ってくると分かった上で音声を収録し、作品に取り入れました。どうやって断ってきたのかの、リアルな証拠が撮りたかったのです。早々に取材NGが続出したので、菅さん本人には到底たどり着けないと思い至りました。

 ――本作の公式ツイッターアカウントが凍結する騒ぎもありましたね。

 1回目のマスコミ試写会の後に急に凍結され、その時は機械トラブルだろうぐらいにしか思いませんでした。凍結はすぐに解除されましたが、ツイッター社に凍結の理由について正式な質問状を送って尋ねても「スパムアカウントと誤認識した可能性があります」という、型通りの回答しかありませんでした。「この程度の対応でいい」という姿勢が大人の社会でまかり通ってしまうことが本当に許せない。インタビューに応じてくれた(自民党元幹事長の)石破さんは「国会でありえないことが起きている」とも言っていた。しかし、誰も是正しようとしない。政府もツイッター社も説明をする、理解を得ようという姿が見えない、独善的な感じですね。

■「政治を笑う」新しいカルチャーを

 ――政府の「広報機関」と言われるようになってしまったマスコミの報道姿勢にも疑問を持たれていますね。

 マスコミ自体が思考停止に陥っていると思います。例えば、菅さんを囲むパンケーキ懇談会に番記者が参加するかしないかと話題になった時、ある新聞社に質問したら、「行くのが当たり前だ」と答えたんです。「総理がしゃべったことを網羅して伝えるのが全国紙の役割だから行かないという判断はない」と。その役割のために「権力の監視」ではなく、権力へのすり寄りになっていないかと多くの人が感じている。もはや思考停止と言われても仕方ないのでは。

 ――そうした危機感が「しんぶん赤旗」編集部への密着につながった?

 今やスクープを連発しているのは「赤旗」と「週刊文春」ぐらいでしょう。「赤旗」を取材するなんて、テレビではありえないことなので、あえてチャレンジしました。共産党の機関紙がどうやって制作されているのか。未知の世界を取材するドキドキ感が、視聴者に伝わればいいなと思ったのです。ガチガチの思想に固まった人や理屈っぽい人がたくさんいるのかと思いきや、全然そんなことない。僕らと同じような感覚で仕事をしています。

 ――内閣支持率はいまだに3割前後を維持しています。

 政治が自分の生活に直接関係があると思っている人が少ないからでしょう。コロナ禍になって生活に身近な問題が多発しているはずなのに、怒る国民が少ないのは不思議です。飲食事業者にしても協力金の支払いが遅滞する中、よく我慢しているなと。自粛を要請される前に払ってもらったならルールに従うとしても、払いもしない国になんで忖度しなきゃいけないのか。これだけ自粛させられて、楽しいものもなくなって、飲食やエンタメ業界の人に限らず普通の勤め人は怒らなくていいのかと感じます。

 ――なぜ政治と生活が結びつかないのでしょう。

 その疑問は今回の取材のテーマでもありました。どうやったら選挙に行くのか、聞いて回りましたが、皆が皆、頭を悩ませていますよね。僕としては興味を持たせるために笑わせることをとっかかりにした。選挙に行かない人に、どうやったらリーチできるのか。一番大事だと考えたのは、政治を笑う新しいカルチャーもありなのだと球を投げることです。ちょっとオシャレ、面白いとか、若い人を中心に広がってくれるとうれしいですね。

(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)

▽内山雄人(うちやま・たけと)
1966年、千葉県柏市生まれ。早大社会科学部卒業後、90年、制作会社テレビマンユニオンに入社。93年、TBS「世界ふしぎ発見!」でディレクターデビュー。主な作品に、日本テレビ「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」、NHK-BSプレミアム・アナザーストーリーズ「あさま山荘事件」「よど号ハイジャック事件」など多数。

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