東儀秀樹さんが雅楽をまだ知らなかった中学時代 メキシコでプログレに魅了される

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東儀秀樹さん(雅楽師 作曲家 ミュージシャン/61歳)

 奈良時代から続く由緒ある楽家の家系に生まれて、1996年まで宮内庁の楽師を務め、さまざまな音楽活動を繰り広げてきた東儀秀樹さん(61)。雅楽器からギター、ピアノまで何でも弾きこなす才能はまさに天性だが、中学生時代に影響を受けたのはイギリスのロックバンド、ELPの「展覧会の絵」(71年)だった。

 ◇  ◇  ◇

 父親の仕事の関係で中学1、2年生の時はメキシコシティーに住んでいました。ELPとの出会いはその頃です。プログレッシブ・ロック(※)のことは日本人学校の同級生から聞いて知った程度。「展覧会の絵」はメキシコでも話題になっていたので、レコード屋をのぞくといつもかかっていました。象徴的でシュールなデザインのジャケットは不思議な感じがしましたね。

 当時はまだ雅楽には興味もなくて何も知らなかった時代です。「展覧会の絵」もクラシックのムソルグスキーの曲ということはわかっていましたが、原曲を聴いたことはなかったので、ELPの曲が先です。

 ELPはキーボードのキース・エマーソン、ボーカル、ベースのグレッグ・レイク、ドラムのカール・パーマーのトリオです。このアルバムはライブを収録したものですが、圧倒的だったのはエマーソンのキーボード。それまで聴いたことがない弾き方だった。当時はシンセサイザーの出始めの頃。それにハモンドオルガンも使って組み合わせる。しかも、ドラムとベースが激しくて音圧もある。まるでストーリー性がある長編ドラマを見ている感覚。充実感があり、完成度がものすごく高かった。クラシックとの融合がここまでエキサイティングにできていて、しかもそれをたった3人でやるのはすごいと思いましたね。

 随分経ってから原曲を聴いてみたけど、「やっぱりELPがいいな」というほど、僕にとってはショッキングな出会いでした。

「展覧会の絵」にはグレッグ・レイクがアコースティックギターをソロで弾き、歌う場面があります。僕は音楽的に器用だったので譜面がなくても人がやっているのを見て、なんとなくマネができちゃうんですね。帰国してから高校で、コピーするのではなくこんなふうだったかなという感じでギターを弾いてみたら、友だちに「なんで弾けるんだ」とビックリされました。それがきっかけで「ギターといえば東儀秀樹だ」といわれたり(笑い)。

中学3年の息子もこのアルバムが大好き

 宮内庁に入ったのは高校を卒業してすぐ。18歳の時です。それまでは洋楽系のミュージシャンになりたいと思っていました。でも、外国にいた影響なのか、自分が日本人であることの価値観や誇り、責任を感じ、日本人が日本の文化を背負えるのは素晴らしいことじゃないかと思ったこと、家が古くから雅楽の血を継いでいるんだから、雅楽をやってみようと考えるようになりました。

 やりたいのが雅楽じゃなくて洋楽やロックといっても、雅楽じゃダメな理由を言えないのは悲しいし、雅楽も全部吸収した上でロックだジャズだというなら、やっぱりそうかなとなるんじゃないかと考えました。

 雅楽をやり始めてすぐに魅力にとりつかれたということではなかったですね。雅楽に接している自分が嫌にならず「これは違う」という感覚がないまま、自然に接することができている、そんな感じでじわじわと良さを感じ、探究心が芽生えました。雅楽以外の音楽をやってきたからこそ雅楽のいいところや疑問点もわかるし、むしろ小さい時から雅楽をやってきた人よりも掘り下げることができることが強みにもなっている。

 気がついたら、雅楽の楽器でロックバンドと融合したり。過去のミュージシャンがクラシックとロックを融合させたのと同じことを自然にやっていましたね。

 当時はイギリスならストーンズ、ビートルズ、ディープ・パープル、アメリカならドゥービー・ブラザーズ、イーグルスなんか聴いていました。サビがキャッチーでなんとなく口ずさんでしまうようなノリのいい、楽しめるロックが好きです。今も70年代のロックテイストのストレートな曲も時々作って楽しんでいます。

 僕が70年代のロックを聴いていると、バンドをやり始めた、中学3年になる息子もカッコいいと言って聴いています。息子もこのアルバムが大好き。僕もそうだけど、息子もJ-POPやはやりの音楽より70年代のロックの方が好きだと言います。

 96年に宮内庁を辞めると同時にデビューして今年で25年になります。デビュー当時は母、姉と一緒にステージに立っていました。平安貴族はよく家族で集まって雅楽を演奏していたのですが、家族単位で今もそれがやれるのはすごくレアなケースです。家族の空気感、家族の輪とか絆も表現のひとつとして大事です。最近はバンドとの演奏、ツアーが多いけど、節目の年に初心に帰り、家族との演奏を取り入れたコンサートを開催する予定です。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)

※60年代後半に出てきた実験的、革新的、重厚なロック。キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、ELPなど

■10月12日「東儀秀樹25周年記念コンサート」
出演:東儀秀樹、東儀典親/東儀九十九、東儀雅美/楽師8人、神田明神ホール。チケット完売につき、急きょ配信決定! 10月17日(日)20時(配信チケット3000円) https://togi1017.peatix.com アーカイブあり

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