香西かおりさんはボサノバに心酔し30年 名曲への思い語る

公開日: 更新日:

香西かおりさん(歌手/57歳)

「雨酒場」(1988年)でデビュー、その後も「流恋草」や「無言坂」がヒットした香西かおりさんにとって今も大切にしている曲がある。音楽の幅を大きく広げてくれたボサノバの「黒いオルフェ」。今もコンサートで歌い続けている名曲への思いを語ってもらった。

 ◇  ◇  ◇

 香西さんがブラジル人のボサノバ歌手、アストラッド・ジルベルトが歌う「黒いオルフェ」に心酔したのは「雨酒場」と「流恋草」(91年)がヒット後、デビュー4年目、92年に「花挽歌」を発売した頃だった。

文化庁のイベントでパーカッションの仙波清彦さん、ギタリストの渡辺香津美さんといった一流のジャズメンの方々とお会いする機会がありました。一緒に食事をしながら音楽の話になって『オルフェ、歌える? 香西さんの声に合っていると思うけど』と言われ、私は『それってどんな音楽ですか』と聞き返しました。すると『ボサノバです』と教えてくれた。その頃は音楽の幅を広げるために『だれの音楽を聴けばいい?』と好奇心が旺盛で、いろんなジャンルの歌を聴いていた時期だったので、『黒いオルフェ』を興味津々で聴きました。改めてポルトガル語の曲をきちんと聴いてみると聴き覚えがある曲だし、とても新鮮に感じました。

 基本から手取り足取り教わり、人前で歌ってみるチャンスもいっぱいいただいて、ライブのステージでも歌わせてもらいました。いろんなリズムを知ることになって、とても勉強になりましたね」

 アストラッド・ジルベルトは「イパネマの娘」がヒットしたブラジル出身のボサノバ、ジャズ歌手。市電の運転手オルフェと婚約者、恋人との悲恋を描いた映画「黒いオルフェ」は1959年(日本では60年)に公開され、第12回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞、ブラジル音楽が世界的に広がるキッカケになった名作としても知られ、その中で「カーニバルの朝」として歌われているのが「黒いオルフェ」。「ボサノバの神」といわれるジョアン・ジルベルトと結婚したアストラッド(のちに離婚)が歌う日本語版は「夢さめて あおぐ この朝のひかり」の哀愁に満ちたメロディーで始まる。日本では渡辺貞夫や小野リサなどのカバーで知られる。

「黒いオルフェ」は異ジャンルへのチャレンジです

 演歌歌手、香西かおりにとってボサノバは――。

「『黒いオルフェ』は私にとっては別の引き出し、言い換えると音楽の中で異ジャンルへのチャレンジです。チャレンジしたことで歌手としての楽しみや刺激が倍増しました。歌っているとワクワクするんです。他のみなさんとライブのステージで歌うと『次はどこに行ったら聴くことができますか』とよく言われます」

 演歌とボサノバをこんなふうに考えている。

「デビューした頃と音楽に対する考え方は変わらないです。ただ、70、80年代くらいからですかね、演歌という言い方をされ始めたのは。それまで流行歌とか歌謡曲と言っていたのが突然、演歌という縛りができて着物を着て歌わなきゃいけない……。私たちの大先輩は、さのさからポピュラー、ジャズまでいろいろ歌っていたのに、演歌は歌っているのが未練とか別れとかになり、幸せな歌がヒットすると『幸せ演歌』なんていわれて。そういう意味では今も演歌の難しさを感じますが、歌えるところで楽しんでやることができればいいのかなと思っています。

 ですから、私にとってボサノバは興味、好奇心ですね。ボサノバというリズムや、ジャズのリズムを楽しむ。自分のリズムの刻みようで、歌う曲へのアプローチの仕方を変えてみたりして。リサイタルの中の楽曲をボサノバのリズムでアレンジして、自分の音楽に異ジャンルを持ち込むことができるので、やり方が広がってとても楽しいです。

■ブルースフェスのステージで歌うのが楽しい

 緊急事態宣言の間にもブルースフェスティバルに参加させてもらいましたし、5月13日にはブルース・アレイでライブを予定しています」

 3月3日に「ホームで/ステージライト」を発売した。どちらも香西さんが作詞を手がけた新曲だ。「ホームで」についてこう語る。

「昨春、緊急事態宣言が発令された数日後、東京駅のホームで大阪に帰る新幹線を待っていたらあまりに人がいなく、車両に乗り込んだら私しか乗っていなかった。あの時に突然、日常が奪われる瞬間を初めて経験しました。それを恋愛の形にすることはできないか……。コロナ禍になって、年老いた両親に会おうとしても病院や施設に面会に行くような当たり前のことすらできなくなり、またすぐに会えるね、明日来るねと言ったきり会えなくなったりすることもあるんだなという、切ない思いも込めました」

 演歌もボサノバも香西ワールドだ。

(取材・文=峯田淳/日刊ゲンダイ)

▽香西かおり(こうざい・かおり)1963年、大阪市出身。88年「雨酒場」でデビュー。「流恋草」「無言坂」「浮寝草」などがヒット。紅白出場は19回。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志氏はパチプロ時代の正義感どこへ…兵庫県知事選を巡る公選法違反疑惑で“キワモノ”扱い

  2. 2

    タラレバ吉高の髪型人気で…“永野ヘア女子”急増の珍現象

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    《#兵庫県恥ずかしい》斎藤元彦知事を巡り地方議員らが出しゃばり…本人不在の"暴走"に県民うんざり

  1. 6

    シーズン中“2度目の現役ドラフト”実施に現実味…トライアウトは形骸化し今年限りで廃止案

  2. 7

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  3. 8

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 9

    大量にスタッフ辞め…長渕剛「10万人富士山ライブ」の後始末

  5. 10

    立花孝志氏の立件あるか?兵庫県知事選での斎藤元彦氏応援は「公選法違反の恐れアリ」と総務相答弁