アリス矢沢透さん「A.ブレイキーのドラムに総毛立った」

公開日: 更新日:

矢沢透さん(アリス/72歳)

 数々のヒット曲で人気の「アリス」はギター&ボーカルの谷村新司、堀内孝雄ドラマーの矢沢透のグループ。代表曲「チャンピオン」「冬の稲妻」の鮮烈なドラムには今も圧倒されるが、矢沢さんのドラマー人生を決定づけたのは、ジャズ界の超大物、アート・ブレイキーの存在だった。

 ◇  ◇  ◇

 ドラムとの出合いは12、13歳の頃ですね。4歳上の兄が高校のブラスバンド部で小太鼓をやっていましてね。その頃の僕は野球をやりたくて外に遊びに行きたいのに、弟になんでも教えたがる兄の悪い癖で、最初はいやいや始めたんです。

 でも、年中聴かされているうちに好きになって、学校まで休むようになって。とはいっても、その頃なりたかったのは本当はクラシックとか行進曲の指揮者でした。お箸を指揮棒にして振るのが好きで。それが変わったのは兄がジャズのレコードを買ってくるようになってからです。フィリー・ジョー・ジョーンズ、マックス・ローチ、もっとも有名なアート・ブレイキー……。

 ドラムといっても、兄がやっていたのは小太鼓です。そのうちベンチャーズとかをやるようになってドラムセットを買ってもらい、僕も時々触らせてもらうようになりました。衝撃的だったのはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズが演奏した映画「危険な関係」のテーマ曲「危険な関係のブルース」です。アート・ブレイキーのドラムのスイング感にしびれました、スネア(小太鼓)の音もよかった。体にビーンときて、総毛立ちました。その瞬間、「プロのドラマーになる」、そう決めました。

■中学時代からドラムに明け暮れ、高1で中退

 当時、住んでいたのは清水(静岡)です。静岡までは11キロくらいありますが、小太鼓と漫画、電話帳を持って自転車で駿府城公園まで出掛け、誰もいなくなる夜まで叩いていました。ドラムをやっている人なんてまだいない時代の話です。

 高校に入ってからはドラムを叩きたいから学校を休むし、1年の2学期は全部遅刻しました。今も学校の遅刻の記録保持者です(笑い)。当時7時20分から8時まで放送していた「ヤング720」という番組は、最後の5分くらいにバンドの演奏がありました。僕はそれを見ないと学校に出掛けられなかった(笑い)。

 授業に出ないから、友だちが給食のコッペパンを持ってきてくれたこともあったし、たまに授業に出ても机の下で叩く練習です。先生に怒られ、チョークを投げつけられたこともあるけど、理解してかわいがってくれました。「はっきり夢を持っているのはいいことだ」と。

 プロになるキッカケは高1の1月7日。トランペットをやっていた中3の友人が専門誌「スイングジャーナル」の「バンドボーイを求む」という募集を見つけたんです。プロになりたいという彼に「一緒についてきてくれないか」と言われ、東京のヒルトンホテルまで出掛けていきました。

 募集していたのはトランペットの第一人者だった中野彰さんです。中野さんは「明日から来てくれ」というけど、中学生の友人は卒業してからじゃないと行けない。それで僕が「行ける」と言ったら、ちょうど欲しいのはドラムだというんです。その瞬間に僕の人生は流れ始めましたね。清水に戻ると、母親に退学届を出してもらって、すぐに東京に出ました。

 それからは努力、努力……。本土返還前に、沖縄の米軍キャンプを回っていた時期もあります。3カ所で5時間、1日15時間ドラムを叩いた。そんな時代を経験して1971年にアリスを結成したわけです。

アリスは激しいんです、3人で闘っている

 60年代の日本はジャズが席巻していました。アート・ブレイキーやバディ・リッチ、マックス・ローチのような海外の有名ドラマーや、日本人のジョージ川口、白木秀雄を集めたドラマー競演のコンサートも多かったんです。アート・ブレイキーはドラマーなら誰もが一度は通る道です。それからいろんなドラマーも経験して、最終的にエルヴィン・ジョーンズに行くとか。

 アート・ブレイキーの特長はナイアガラロールです。ザザザザーというナイアガラの滝を思わせる細かいドラミングのことです。僕もほとんどコピーしました。基本は同じでも、今のジャズと昔のジャズはおかず(つなぎなどで入れる即興)の入れ方とかが全然違うから、今はアート・ブレイキーを勉強することはないけど、基本に返る時は聴きます。テクニックに走り過ぎたり、難しいことばかりやって、ちょっと違うなと思う時とか。オーソドックスなものを聴いて自分の行き過ぎを諫めます(笑い)。

 常に僕しか叩けないドラムを目指しています。誰が聴いても「キンちゃんが叩いている」とわかるおかずの入れ方、リズム、音……。わかる人にはわかるんですよ(笑い)。

 アリスは激しいんですよ、3人で闘っている。普通、ドラムは闘わない、盛り上げるのが役割です。ところが、今は歌とギリギリまで闘っている。闘わないなら休む。闘っても歌とのバランスがいいとうるさく感じないんでしょうね。以前からバスドラ(大太鼓)とスネアのバランスがいいとよく言われたけど、米軍キャンプを回って、1日15時間叩いていた時代に培われたのかもしれません。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ

■4月15日、渋谷クロスFM「ALICE矢沢透の飲食応援団!~美味しいものを食べに行こう」がスタート。六本木で串焼き「阿雅左」を経営するMC矢沢が飲食店オーナーズ11のメンバーをゲストに繰り広げるグルメエンターテインメント番組(隔週放送、第1&第3木曜19時~)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    TBS「ラヴィット!」の“テコ入れ”に不評の嵐! グダグダぶりを楽しむ独自性損失で視聴者離れ加速危機

  2. 2

    「おい、おまえ、生意気なんだよ」 野村監督は俺の挨拶を“ガン無視”、暴れたろうかと考えた

  3. 3

    「オールスター感謝祭」で“ブチギレ説教” …島崎和歌子は今や「第2の和田アキ子」の域

  4. 4

    NHK朝ドラ「風、薫る」巻き返しを阻む“最大のネック”…見上愛&上坂樹里Wヒロインでも苦戦中

  5. 5

    米国とイランが2週間の停戦合意も日本は存在感ゼロ…お粗末すぎた高市外交を識者「完全失敗」とバッサリ

  1. 6

    スピードスケート引退・高木美帆にオランダが舌なめずり “王国復権の切り札”として白羽の矢

  2. 7

    高市政権が非情の“病人切り捨て”強行で大炎上! 高額療養費見直し「患者の意向に沿う」は真っ赤なウソ

  3. 8

    ブチ切れ高市首相が「誤報だ!」連発 メディア、官邸、自民党内…渡る政界は「敵ばかり」の自業自得

  4. 9

    JFAは森保一氏の“囲い込み”に必死 W杯後の「次の日本代表監督」のウワサが聞こえない謎解き

  5. 10

    『エニイ・タイム・アット・オール』1964年のジョンのギターを聴くだけで元気が出る