著者のコラム一覧
相澤冬樹ジャーナリスト・元NHK記者

1962年宮崎県生まれ。東京大学法学部卒業。1987年NHKに記者職で入局。東京社会部、大阪府警キャップ・ニュースデスクなどを歴任。著書『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)がベストセラーとなった。

鮎川誠さんの「ロック葬」で見た光景…一人の女性と一つのギターを愛し続けたロック人生

公開日: 更新日:

 2月4日立春。東京・世田谷区の住宅街で駅前から延々と続く人の列。革ジャン姿や花を手にした人も目立つ。「何これ? どこまで続いてるの?」といぶかしんだ人も多いだろう。日本を代表するロックギタリスト、鮎川誠の“ロック葬”だ。(敬称略)

  ◇  ◇  ◇

 福岡県出身で、妻のシーナらとシーナ&ロケッツ(以下シナロケ)を結成し「ユー・メイ・ドリーム」が大ヒット。8年前にシーナががんで急逝した後もロック一筋に走り続けてきた。1月29日、すい臓がんで死去。享年74。“ロック葬”にふさわしく会場にはシナロケの曲が響くが、先駆者チャック・ベリーやボ・ディドリーの曲も流れる。これは鮎川誠が自ら選曲しCDにまとめ、ライブの開始前や後に会場で流していたものだという。

 鮎川誠といえば、黒のギブソン・レスポール・カスタム。半世紀近く愛用したギターが祭壇の脇に飾られていた。一つのギターをこれだけ使い続けた例はほかに聞かない。長年の演奏で傷だらけの姿に彼のロック魂が刻まれているようだ。遺影でもこのレスポールを抱えている。長女の陽子さんいわく、「本当はレスポールを(棺に)入れたいんですけど、それはできないから……」。

 会場には4000人が訪れ別れを惜しんだ。なぜこれほど愛されるのか? 会場で偶然お会いしたある方にお聞きした。福岡の著名なラジオ・パーソナリティー、栗田善太郎さん。シナロケと親交が深く、ラジオドラマを制作して民放連の賞を受賞。これが後に本になり、NHKのドラマ「You May Dream」の原案にもなる。栗田さんはこんなエピソードを披露してくれた。

「例えばライブの前にファンが『ウィルコ・ジョンソン(イギリスのロックバンド、ドクター・フィールグッドのギタリスト)が好きです』と伝えると、『お! ウィルコかっこいいよねぇ! 同じミュージシャンが好きなら俺たちもう友だちやねぇ! よろしく!』と、大きな手でがっしり握手していました。ロック好きなら初対面でも友だちやね、と言える人です。だからこれだけの方が葬儀に集まるんでしょう」

 常に鮎川誠のそばにいた妻のシーナをめぐるエピソードもお聞きした。会場の一角に展示されていたセットリスト(ライブの演奏曲順)について尋ねた時のことだ。

「どれも手書きで貴重ですよね。あれはやはり鮎川さんが書いたものですか?」

「そうです。彼はいつもライブの当日まで楽屋で曲順を考えて自分でセットリストを書いていました」

「セットリストを見るとどれもアンコール前の2曲が同じで、まず『ユー・メイ・ドリーム』、そして最後が『アイラブユー』でした」

■ラスト2曲が「ユー・メイ・ドリーム」と「アイラブユー」の理由

 栗田さんはうなずいて、「そうそう。あの曲は元々シーナが『アイラブユー』って叫んで曲が始まってたんです。シーナが亡くなってどうするかと思ったら、鮎川さんが曲の前に観客に語りかけるんですよ。『シーナがおる時はシーナがアイラブユーっち言うて曲はやりよったけど。シーナはステージに今も(魂は)おるんやけどね、声が出せんけん。俺がせーのって言うたら、みんなでアイラブユーって言って!』。それで観客がせーので『アイラブユー』と叫んで曲が始まりました」。

 最後まで変わらなかった博多弁丸出しのMCもすてきだし、シーナとの絆が深く印象に残る。そして愛用した黒のレスポール。ほかにもギターは展示されていたが、「ライブではほとんどあのレスポール一本でしたよ」と栗田さんは語る。その時、ふと感じた。

「鮎川さんは、一人の女性と一つのギターを愛し続けた、ってことですね」

 栗田さんは指をグッと上げて、「カッコいいよね」。

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