落語家・立川志らくさん 日本人が「寅さん」を理解できなくなる日も…時間延ばしするしかない

公開日: 更新日:

 落語界の人気者、立川志らくさんはコメンテーターをはじめとするメディア出演などマルチな活躍を続けている。多趣味で映画好きでも知られ、著書「決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集」を上梓したばかり。志らく師匠にとっての「今を生きる」を語っていただいた。

 ◇  ◇  ◇

決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集」(ART NEXT)は映画「男はつらいよ」48作、各作品の名言を取り上げ、寅さんの生き方から学ぶことができることを志らく流に料理した著書だ。

 寅さんみたいに生きられたらいいなというのは到底できやしない願望なんですよ。自由に言いたいことを言い、好き勝手に生きることは、芸人の私にもできない。でも、日本人のいいところは寅さんに集約されているので、そういう考え方が理解できなくなったら、日本人は日本人じゃなくなってしまうんじゃないかって危惧しています。寅さんみたいな風来坊が憧れと思うのは我々やもう少し下の世代まで。それすらわからないのがもっと若い世代です。日本人としての心を失いつつあるのが現代社会なのかなという気がします。

 例えば、おいちゃんが寅さんを「バカだね」と言う。でも、それは本当にバカって言ってるわけではない。だけど、今はバカという言葉がダメってことになる。バカって言葉すら抹殺しようとするでしょ。

 先日、山田洋次監督が新作映画「こんにちは、母さん」の記者会見で、映画を見る時は「映画の作り手としては静かにしてもらう必要は全然ないです」「わいわいおしゃべりしながら大声を上げて笑いながら見ていただきたい」とコメントしました。監督が言いたかったのは映画はかしこまって見るものじゃない、時に大声を出して笑いながら気楽に見てもいいという意味だったのですが、若い人がマナーを守らないでどうするんだと騒いで炎上したわけです。監督はマナーを守るな、マナーなんてどうでもいいなんて一言も言ってないのにですよ。

 バカなんじゃないかと思いましたね。監督が言わんとしていることをきちんと理解しないで、言葉の表面だけ受け取って怒っている。今はメディア全体もそうなっていて、若者もそうなっちゃってますよね。

 今は何でも世界基準です。それは間違ってはいないけど、日本の場合は言葉だけを受け取ってそれを基準にする。例えば、女性に対するセクハラやパワハラに対して。そんなことを言った日には落語なんて全部基準から外れるわけです。男尊女卑の最たるものが落語の登場人物なわけで、それをわかった上でみんな楽しんでいる。例えば、ただのバカ、どうせ女じゃねえか、なんて言い方をしても、女房の手のひらにのせられて遊んでいるみたいなことがあるわけです。そういうバランスがあってうまくいっていたものが全部ダメになっちゃう。

 寅さんも落語も、今はまだ我々の世代がいるからお客は笑うけれども、いつしか人情がわからないで、無駄だ、矛盾だという人ばかりになっちゃうんでしょうね。どうしたら食い止められるか。時間延ばししかないでしょうね(笑)。だから、もう一度寅さんを見てみましょう、落語を聞いてみましょうという時間延ばしです。やがて次の次の世代では、それも消え去っていくでしょうね。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  3. 3

    松下洸平“電撃婚”にファンから「きっとお相手はプロ彼女」の怨嗟…西島秀俊の結婚時にも多用されたワード

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  1. 6

    (1)広報と報道の違いがわからない人たち…民主主義の大原則を脅かす「記者排除」3年前にも

  2. 7

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  3. 8

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  4. 9

    自民党「石破おろし」の裏で暗躍する重鎮たち…両院議員懇談会は大荒れ必至、党内には冷ややかな声も

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」