ミュンヘン五輪襲撃事件をテレビ報道陣の視点で描く緊迫の90分

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音響効果が不安感をかき立てる

 こうしたストーリーがスピーディーに展開するため、観客はぐいぐい引き込まれてしまう。息をつく余裕もない。体調の悪い日に本作を見ると、字幕をしっかり追えないだろう。未見の人は万全を期して鑑賞してもらいたい。

 興味深いのが中東をめぐる報道関係者の慎重姿勢だ。事件発生直後、ジェフらは犯人グループをどのように呼ぶかということでも議論する。一人がゲリラでいいではないかと言い、本当にゲリラでいいのかとの反対意見も出て、最終的に「テロリスト」に決まるのだが、こうしたやり取りから、イスラエルvsアラブの中東情勢がセンシティブな問題であったことが窺い知れる。

 また、当時は国際中継の時間枠をテレビ局が分け合って使用していたため、他局との交渉もしなければならない。枠の取り合いで貸し借りをつくるなど、テレビ局同士の水面下のせめぎ合いも興味深い。

 大型カメラを建物の中から屋外に移動させて選手村を見下ろす位置から撮影。選手に化けた黒人スタッフに放送センターと選手村の間を往復させてフィルムを運ぶという奇想天外な作戦を取るが、もちろんこれも事実だ。

 物語の最初から最後まで、映画のカメラはこのセンターに固定されている。エアコンが故障した蒸し暑い室内で彼らは汗だくで知恵を出し合い、議論し、報道という試練に立ち向かう。ここに不安感をかき立てるBGMが絶えず流れ、見ている者を否応なく53年前の事件現場に落とし込む。映画と音楽は切っても切れない関係だが、これほどまでに音響効果が不安感をかき立てる映画は珍しい。トラウマになりそうだ。

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