『プロフェッショナル』お約束の“引退する殺し屋”が革命組織IRAの鉄の女とドンパチ

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TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

 リーアム・ニーソンはすごい。あの年で殺し屋としてしっかり戦っている。だから彼の新作をつい見てしまうのだ。

 本作の舞台は1974年の北アイルランド。血塗られた過去を捨て去りたいと願う殺し屋フィンバー(リーアム・ニーソン)はおのれの正体を隠し、海辺の田舎町で静かに生きていた。ビンセント警察署長(キアラン・ハインズ)とは射撃の腕前を競い合う仲で、男同士の友情で結ばれている。ビンセント署長には「本の販売で生計を立てている」と説明しているが、実は今もフィンバーは現役の殺しだ。

 そうした日々のなか、フィンバーは殺し屋稼業からの引退を決意。同じころ、首都ベルファストで凄惨な爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派4人が町に逃げ込んでくる。

 フィンバーはシングルマザーと暮らすモヤという少女をかわいがっている。だがモヤはIRAの女性リーダー、デラン(ケリー・コンドン)の弟カーティスから虐待を受けていた。

 フィンバーはモヤを守るため、殺し屋稼業の最後の仕上げとしてカーティスを殺害。このことにデランが気づき、弟の敵を討つべくフィンバーをつけ狙うことになる。後戻りできない状況に追い込まれたフィンバーはテロリストたちを完全制圧するべく、命懸けの戦いに身を投じていくのだった……。

 フィンバーは殺し屋だが、過去に罪を犯したワルの処刑を担当。同業の若き殺し屋ケビン(ジャック・グリーソン)が「女を殺した」と自慢した際は怒って殴りつける。女性に優しいのだ。だから幼いモヤに暴力をふるうカーティスを殺そうと決めた。しかし気づいてみたら、IRAの女性闘士デランと対決するはめに陥っていた。この皮肉な運命が本作の隠し味だ。少女のために暴力男を殺したフィンバーと弟を殺した殺し屋を許せないデラン。双方が愛情が原因で対決するという構図も見逃せない。

 設定は70年代。映画はデランという女テロリストを、男のメンバーを指図して罵倒し、拳銃を撃ちまくる“鉄の女”として描いている。闘争意欲120%の怖い女なのだ。

 70年代は日本でも女が暴れていた。連合赤軍の永田洋子は連合赤軍リンチ事件(71~72年)の主導者で、彼女のヒステリーに恐怖支配された活動メンバーがお互いを殺し合った。重信房子はパレスチナ解放人民戦線(PFLP)に参加、日本赤軍の最高幹部でもあった。

 そういえば「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(中ピ連)」の榎美沙子というお騒がせ女も気勢をあげていた。本作のデランはそうした戦闘的な女を思い返させてくれるのだ。筆者はスクリーンを見ながら「永田洋子もこの勢いで“総括しろ”と詰め寄ったんだろうなぁ」と背筋に冷気を感じた。

 こうした時代背景のもとに殺し合いの連鎖が起き、フィンバーとケビン、ビンセント署長の友情が絡まってドラマが進んでいく。牧歌的な田舎の風景がきな臭くなるのだ。

 その昔、日本ではジョン・ウェインなどの西部劇を「西部人情劇」と呼んだが、本作は70年代北アイルランド版の人情劇。ちなみにメガホンを取ったロバート・ロレンツ監督は長年クリント・イーストウッドとタッグを組んできた実力派だ。

 それにしてもリーアム・ニーソンの元気なことよ。1952年6月生まれの72歳。最近のリーアム・ニーソンは引退宣言した殺し屋とか引退した工作員のような特殊能力を持つ戦士を演じることが多い。今回もお約束の役柄で登場だ。

 魅力はその格闘場面がかっこよくないことだ。年齢が近いデンゼル・ワシントン(70)は「イコライザー」シリーズで舞踏のような瞬殺の立ち回りを披露したが、リーアム・ニーソンはそうした華麗さから遠い。192㌢の長身を使って必死で取っ組み合いをする。言うなれば「戦う頑張り爺さん」。60代半ばの筆者は彼の踏ん張りに拍手。「この爺さんを見習って、オラも戦うぞ~」と勇気づけられる。だからリーアム・ニーソンはすごいのだ!(配給:AMGエンタテインメント)

(文=森田健司)

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