「盲山」中国政府が上映中止に追い込んだ農村人身売買の戦慄
野蛮な村の常軌を逸した伝統的犯罪を直視せよ

リー・ヤン監督は作品にリアリティーを持たせるために、主演のパイ・シューメイ以外は本物の農民を起用。ドキュメンタリータッチの淡々とした演出によって、倫理観も道徳も持たずひたすら欲望を満たし子孫の継承に没入する農村のエゴイスティックな狂態を表現した。
若い女性を騙して農村に売りつける業者。当たり前のように女性を金で買う村人。見て見ぬふりの村長。女性が逃げ出せば村人総出で探し、力づくで連れ戻す。村には真面目な小学校教師もいるが、伝統的な拉致の風習の前では無力だ。狭い農村は狂人の村というしかない。
この作品は「猟奇的な社会派映画」と呼んでいいだろう。女性を監禁という暴力で抑えつけるのは男だけではない。徳貴の母親もグルで「7000元も払っておまえを買ったんだから、言うことを聞け」と恫喝する。村で子供を産み育てている女たちも、実は拉致され妊娠させられたという悲劇を抱えている。だが彼女たちは運命を受け入れ、現在の生活に馴染んでいる。こうした人間の感性の鈍化も恐ろしい。
この映画を見ながら邦画「砂の女」(1964年)を思い出した。都会から昆虫採集に来た教師がある部落にとらわれ、何度も逃げ出すが村人たちに捕まる。シュールな不条理劇として結末に納得できた。
だがこの「盲山」は、そんな生やさしいものではない。若い女性の人生がズタズタにされる。帰りたいけど帰れないという苦悶の中、最後の最後まで村人の狂気が主人公を支配するのだ。野蛮な村の常軌を逸した伝統的犯罪を直視して欲しい。
本作は筆者にとって今年見た映画の中で一番ショッキングだ。これが中国の農村の真実なのだろうか?(配給:STRANGER)
(文=森田健司)