「寄生獣」(全10巻)岩明均作
「寄生獣」(全10巻)岩明均作
ストーリーの柱は単純だ。人間にほかの生物が寄生する(?)よくある話である。
それが次第に複雑なプロットとなり、やがて哲学的な話にまでなり、人気を得るようになった作品である。総発行部数は1000万部程度と、ほかの超人気作と比べると劣るが、だからこそマニアたちの圧倒的な支持を受け続けている。
物語は主人公の高校生がベッドで音楽を聴きながらくつろいでいるところから始まる。空から落ちてきた生物が体に入り込み、右手と置き換わるのだ。主人公はこの生物に「ミギー」と名前をつけ、共存しながら生活していく。
このミギー、宇宙から多数降りてきた寄生生物(パラサイト)のうちの一匹であった。
パラサイトはあちこちでさまざまな人間に寄生しており、やがて各地でトラブルを起こしていく。寄生主の人間を操り、一般の人間を次々と襲って食い殺していく。人を殺害するときは自身の体を変化させて巨大な刃物になり、一気にスパッと切り捨てる。知能が高く、人間社会の書籍を次々と読んで理解し、策略を巡らすので厄介だ。
このパラサイト、鼻の穴から入り込んで脳に寄生するのが通常だが、主人公は右手先から侵入したパラサイトが上がろうとするのを音楽ケーブルで縛って防いだため、脳への寄生を免れていた。そのため、パラサイトされたほかの人間たちが思考まで支配されるなか、主人公だけは自分を維持し、右手に寄生したミギーと会話し、コミュニケーションを取り続ける。ために両者のディスカッションが作品の肝のひとつとなり、哲学にまで昇華されて人気が出たのである。
主人公は自分の脳で考えて人間として行動しながら、右手にはミギーという武器を持って、ほかのパラサイトたちと戦う。高校を舞台にしてほかのパラサイトと激戦するシーンでは学園バトルものの様相を呈すが、しかしその異様ともいえる残酷性で他作品たちとはまったくもって一線を画す。作者が学園ものに堕さぬよう残酷に残酷にと描くことによって、この作品は強い存在感を得たのだともいえる。
長い戦いで友情が芽生えていく主人公とミギー。やがてミギーが彼ら種族には本来存在しない人間的倫理観を持つにいたり、犠牲的精神で主人公を助ける泣きの結末が待っている。
講談社(KCデラックスアフタヌーン 新装版 770円)