「脳の陰の支配者」グリア細胞はアルツハイマー病にどう関わっているのか
患者数が急増するアルツハイマー病(AD)は、脳内で神経細胞の内外に異常なタンパク質が凝集する神経変性疾患だ。しかし近年、この凝集が見られても認知症症状が出ない例が報告されており、「凝集は病気の結果であり、原因でない」との見方も強まっている。そこで病気の進行にともない変化する「脳の裏方」グリア細胞に注目してみた。
ADは1906年、ドイツの精神科医アルツハイマー博士が、記憶障害や妄想を示した女性の脳を解剖した際に発見された。特徴的な脳萎縮やタンパク質の沈着から、以後は「アルツハイマー病」と呼ばれるようになった。
2022年に医学誌「ランセット」が発表した推計によると、世界の認知症患者数は2019年の約5700万人から、2050年には約1億5300万人に達する見込みだ。
日本では、2022年時点で65歳以上の約443万人が認知症を患っており、2040年には団塊ジュニア世代の高齢化により約584万人(65歳以上の15%)へ増加すると予測されている。
ADには、特徴的な病理所見が2つある。ひとつは神経細胞(ニューロン)外のアミロイドβ蓄積による「老人斑」。もうひとつは、リン酸化したタウタンパク質の神経細胞内の蓄積により「神経原線維変化」を起こすことだ。いずれも神経細胞を障害・死滅させると考えられている。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。