「ライオン」と呼ばれた吉本興業元会長の林正之助さんと初めて話した時のこと
吉本興業の元会長で「ライオン」と呼ばれていた林正之助さん。伝説の名物会長と「一度は話をしてみたい」とずっと思っていましたが、そんな機会はなかなか訪れませんでした。
それが現実のものになったのは1987年11月に「なんばグランド花月」がオープンしてほどない頃でした。会社の玄関入り口にあるエレベーターに乗り込まれた林会長を目にした私はとっさに「今や!」と思い、閉まりかけのエレベーターに飛び乗り楽屋のある3階のボタンを押しました。そして初めて気づいたように「おはようございます」と挨拶をすると、杖を私の方に突き出し鋭い視線で睨みつけ、明らかに怒気のこもった口調で「君はウチ(吉本)の社員か?」と聞かれたのです。心臓が口から飛び出しそうなぐらいドキドキしながら「いえ、阪神巨人さんやいくよくるよさんのネタを書かせていただいている本多と申します」と答えると、鋭かった視線がやさしいものに変わり、杖を下ろして「ウチの芸人がお世話になっております。おもろいもんを書いてやってください」と深々と頭を下げられたのです。
思いもよらない言葉にどう返事をしたのかも覚えていませんが、エレベーターを3階で降りた私は「失礼します!」と扉が閉まるまで頭を下げていました。