「時代に挑んだ男」加納典明(50)逮捕の真相、「編集には一切関わっていない。警察は俺が気に入らなかった」
「本来は俺に直接的な罪はこないはず」
加納「いや、ただの通過点ですよ。それよりも『100万部売りたかったな』っていうのが強いですね」
増田「もし、あの騒動がなければ100万部いったでしょうか」
加納「当然いってたと思いますよ。記録としても残ってるけど、個人の作品で80万部も売れたわけだから。工場でもおそらくすごい数刷っていたはず。それが100万部に届けば、1つの“事件”になっただろうなとは思う」
増田「その後もきちんと写真集をたくさん出されていますよね」
加納「うん、ちょこちょことね」
増田「でも、あの逮捕劇で誰がどんな順番でどのように関わったのかというのが曖昧になっていったのが悔しくはないですか。典明さん1人が背負わされたというか」
加納「それはあるけどね。普通、出版物のプロセスで猥褻図画は、編集し、出版した関係者が罪に問われるもので、著作者の俺は出版された本の編集には一切関わっていないんだ」
増田「たしかにそうです」
加納「俺は本に使った5倍くらいの枚数の写真を渡すだけ、そこから写真を選び、デザインするのがアートディレクター、発売するのは出版社だよな。よって俺には直接的な罪は来ないはずなんだけど、あのとき裏には警察として加納典明を一度引っ張っておこうという考えがあったんじゃないかな」
増田「世間は馬鹿じゃないから、その構図はわかっていたんじゃないですかね。僕も当時そう思ってニュースを見ていたから。でも、そういうときって誰が本物の友人で、誰が偽物か、はっきりとわかりますよね」
加納「そうなんだ。まったくそのとおりだった」
(第51回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。