「コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く」笛吹太郎著
「コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く」笛吹太郎著
普通に芸人をやっていると本を書いてる作家さんと会う機会がないのだが、私は書店でも働いてるので、たまに店に並べてる本の著者さんが来店してくださることがある。本にサインをしてくれたり、メッセージ付きの色紙を書いてくれると、その商品や色紙を置くことで売り上げが伸びる。ありがたい。著者さんによっては1日で県をまたいで数店舗訪問してくれる方もいて頭が下がる思いだ。
書店員芸人という私の肩書を面白がってご飯に誘ってくれる作家さんも数人いる。今回はご飯の席で知り合った中で最もユニークなペンネームの小説家、笛吹太郎さんが出した連作ミステリー短編集を紹介しよう。笛吹太郎、どちらかというと小説家よりも我々芸人っぽい名前だ。
ミステリー小説と聞くとおどろおどろしい殺人事件を探偵が解決する話を思い浮かべる方も多いだろうが、ミステリーにはさまざまな種類がある。本書はコージーミステリーと呼ばれているもので、ごく身近で起こりえる「日常の謎」を扱っている連作短編集だ。
例えば、夜中にソプラノリコーダーを吹いている不審者がいた。また別の話では娘が焼いた猫形のクッキーをこっそり食べたらなぜかものすごく怒られた……など。本書がすごいのはこんなにスケールの小さい出来事から始まるのに殺人ミステリーに引けを取らない思いがけない結末を見せてくれるところだ。どの章も謎が解き明かされるたびに感嘆の息が漏れた。
舞台は人情味あふれる東京の下町、荻窪の喫茶店なのだが、本作がコージーミステリーの名著「黒後家蜘蛛の会」へのリスペクトが多分に入っているからか、文章がとても上品。この舞台と文章のギャップも長所のひとつといえよう。
さらに本書は著者のあとがきも入っているのだが、本の一番最後ではなく各章が終わるごとに解説が入る珍しい構成になっている。この解説が著者笛吹さんのミステリー愛がビシビシ伝わるいい文章なのだ。古典から最近話題の新刊、国内も国外も含めた良ミステリーが知れる素晴らしい解説になっている。
晩秋の夜にコージーミステリーとしても、ミステリー小説ガイドとしても優秀な本書を読んでほしい。この小説がまたほかの小説へと続く新たなドアになるだろう。
(東京創元社 2090円)



















