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スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた最新刊「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)が絶賛発売中。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が発売中。ラジオDJとしても活躍。

『ミスター・ムーンライト』ある世代の日本人にとって生涯忘れられない鮮烈な映像

公開日: 更新日:

アルバム『ビートルズ・フォー・セール』(1964年12月4日発売)⑤

■『ミスター・ムーンライト』

 正直、何ということのない曲である。

 まぁ、冒頭のジョンのシャウトと、ポールが弾く、地を這うようなハモンドオルガンぐらいが聴き物で、それ以外は、なんちゅうことのないカバー曲。飛ばしてもいい曲。

 ……なのだが、ある理由によって、ある世代の日本人にとって、生涯忘れられない一曲でもある。



 60年前のビートルズ来日時のテレビ中継。羽田空港に着いたビートルズを、赤坂にある東京ヒルトンホテル(当時=現ザ・キャピトルホテル東急)に運ぶピンクのキャデラックを映す。出来たての首都高速を先導する数台のパトカーがサイレンを鳴らしながら走る映像の音が、一瞬無音になって、その直後『ミスター・ムーンライト』冒頭のジョンの「♪ミスターーァァァァーーーームーンラーーァァァァーイ」が流れたのである。

 めっぽう鮮烈だったという。その映像、私も何度も見ているが、映像と音の奇跡のコラボレーションと言っていいだろう。

 かくして日本においては『ミスター・ムーンライト』が極めて重要な一曲となったのだ。

 このときの映像を凝視していた少年が45年後の2011年に『月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)』という曲を発表する。はっきりいってビートルズ版『ミスター~』よりもいい曲。

 その少年の名前は──桑田佳祐。

■『ホワット・ユーアー・ドゥーイング』



 アルバム『ビートルズ・フォー・セール』の中で、いちばん最後にレコーディングされた曲。

 こちらも何ということのない曲だ。しかし私、変に好きなんですよね、これ。音として。

 ザ・ロネッツ『ビー・マイ・ベイビー』(63年)や、シーナ&ザ・ロケッツ『ユー・メイ・ドリーム』(79年)が始まりそうなドラムスのイントロはポップだし、続いて出てくるジョージによる12弦ギターのリフは、童謡みたいで何だか可愛い。

 さらに試聴リンク再生時間「1:18」からの間奏は『エニイ・タイム・アット・オール』ほどではないものの、なかなかにエモい。

 でもいちばんの聴きどころは、再生時間「2:12」、演奏がドラムスだけになって、イントロのパターンを繰り返すところに、ポールのベースが「ブーンブーン」と乗ってくるところ(「そうそう!」という賛同の声が聞こえてくるぞ)。

 というわけで「何ということはないが、変に好きな曲」の上位に入る曲なのだ。そういう曲、ビートルズにはけっこうある。 

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