著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

『ミスター・ムーンライト』ある世代の日本人にとって生涯忘れられない鮮烈な映像

公開日: 更新日:

アルバム『ビートルズ・フォー・セール』(1964年12月4日発売)⑤

■『ミスター・ムーンライト』

 正直、何ということのない曲である。

 まぁ、冒頭のジョンのシャウトと、ポールが弾く、地を這うようなハモンドオルガンぐらいが聴き物で、それ以外は、なんちゅうことのないカバー曲。飛ばしてもいい曲。

 ……なのだが、ある理由によって、ある世代の日本人にとって、生涯忘れられない一曲でもある。



 60年前のビートルズ来日時のテレビ中継。羽田空港に着いたビートルズを、赤坂にある東京ヒルトンホテル(当時=現ザ・キャピトルホテル東急)に運ぶピンクのキャデラックを映す。出来たての首都高速を先導する数台のパトカーがサイレンを鳴らしながら走る映像の音が、一瞬無音になって、その直後『ミスター・ムーンライト』冒頭のジョンの「♪ミスターーァァァァーーーームーンラーーァァァァーイ」が流れたのである。

 めっぽう鮮烈だったという。その映像、私も何度も見ているが、映像と音の奇跡のコラボレーションと言っていいだろう。

 かくして日本においては『ミスター・ムーンライト』が極めて重要な一曲となったのだ。

 このときの映像を凝視していた少年が45年後の2011年に『月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)』という曲を発表する。はっきりいってビートルズ版『ミスター~』よりもいい曲。

 その少年の名前は──桑田佳祐。

■『ホワット・ユーアー・ドゥーイング』



 アルバム『ビートルズ・フォー・セール』の中で、いちばん最後にレコーディングされた曲。

 こちらも何ということのない曲だ。しかし私、変に好きなんですよね、これ。音として。

 ザ・ロネッツ『ビー・マイ・ベイビー』(63年)や、シーナ&ザ・ロケッツ『ユー・メイ・ドリーム』(79年)が始まりそうなドラムスのイントロはポップだし、続いて出てくるジョージによる12弦ギターのリフは、童謡みたいで何だか可愛い。

 さらに試聴リンク再生時間「1:18」からの間奏は『エニイ・タイム・アット・オール』ほどではないものの、なかなかにエモい。

 でもいちばんの聴きどころは、再生時間「2:12」、演奏がドラムスだけになって、イントロのパターンを繰り返すところに、ポールのベースが「ブーンブーン」と乗ってくるところ(「そうそう!」という賛同の声が聞こえてくるぞ)。

 というわけで「何ということはないが、変に好きな曲」の上位に入る曲なのだ。そういう曲、ビートルズにはけっこうある。 

■「日本の新しい音楽1975~ "New Music" from 1975」(4月24日発売)
 スージー鈴木氏の大好評連載が書籍化されました!Amazonで予約受付中です!

■著者最新刊「日本ポップス史1966-2023~あの音楽家の何がすごかったのか」 絶賛発売中!Amazonでのお求めはこちらから

■好評連載「沢田研二の音楽1980-1985」をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)発売中!

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希をヤンキースが強奪へ…大谷翔平&山本由伸を奪われた名門が企んだ雪辱戦

  2. 2

    AKIRA版はなかったことに? 反町隆史GTO放送開始で荒ぶる「2012年派」

  3. 3

    ゾンビたばこ広島に黒田博樹監督待望論 「打てない、守れない、人気ない」三重苦で新井監督はクビ不可避

  4. 4

    佐々木朗希は一軍復帰1試合でまた抹消…どれだけ脆弱でもドジャースが欲しがったワケ

  5. 5

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー

  1. 6

    “令和の武器商人”こと小泉進次郎防衛相の「核ありき発言」に自民国防族もカンカン

  2. 7

    ついに1ドル=163円突入で「円安倒産」ラッシュ深刻懸念…すでに前年同期から3割増

  3. 8

    中森明菜のタモリ評「心の底からホッとします」は国民の総意か? サングラス姿と性格的な3要素

  4. 9

    「24時間テレビ」放送1カ月前に日テレ局内に流れる微妙な空気…猛暑の中の星野真里マラソンに大逆風

  5. 10

    震災で家族を心配する選手たちに星野監督が怒号「おまえらは野球だけしとりゃあええんじゃ!」