著者のコラム一覧
本橋信宏作家

1956年、埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。バブル焼け跡派と自称。執筆はノンフィクション・小説・エッセー・評論まで幅広い。2019年、「全裸監督」(太田出版/新潮文庫)が、山田孝之主演でNetflixで映像化配信され大きな話題に。最新刊に「花街アンダーグラウンド」(駒草出版)などがある。

満面の笑みで自己紹介「わたくし、村西とおると申します」

公開日: 更新日:

 1988年初春、野田義治は斉藤慶子主演「採光の個室」発売元のパワースポーツが入っている四谷の高級マンションを訪れた。

 堀江しのぶもこのメーカーからプロモーションビデオを発売してもらうのが目的だ。

 しばらくすると、メーカーのプロデューサーという男が登場した。顔も声もデカい男だ。

「おお、堀江しのぶちゃんのマネジャー!? ナイスですね。わたくし、村西とおると申します」

 男は満面に笑みを浮かべながら、自己紹介しだした。新興AVメーカー、クリスタル映像の社員監督であり、同メーカーの別のセクション、芸能人のプロモーションビデオを発売している「パワースポーツ」のプロデューサーだという。

 野田義治はAVを見たこともなかったが、最近話題になっている目の前の人物の名前くらいは耳にしていた。1986年10月、横浜国大生・黒木香が主演した「SMぽいの好き」は、インテリの女子大生が監督の村西とおるとの肉交で見せる凄絶な快楽の宴に評判が集まり、歴史的名作と呼ばれ、黒木香は一躍時の人になった。みずから撮影・監督・男優を務める村西とおるは、「ナイスですね」「ファンタスティック」「ダイナミック」といった死語に近い英語を発し、それが笑いを誘発し、世紀末日本に登場したトリックスターのような存在になった。

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