売り飛ばされた姉と姉を慕う弟…「娼生」は1970年代台湾の娼婦残酷物語だ
気の毒な女性が「運命」という名の罠にはまって呻吟
映画にせよ小説にせよ、プラスとマイナスが絡むと物語は面白くなる。深窓の令嬢と不良少年が結びつく逃避行ものが受けるのはそのためだ。この「娼生」も同じで、姉は売春婦、弟は真面目な警察官。そこに売春宿の苛烈な掟が絡んで物語はドラマチックに展開していく。
古今東西を問わず、セックスワーカーの人生は茨の道だ。日本でも10年ほど前、女性たちが奨学金のせいで風俗の道を選ぶ現象が社会問題となった。自分の将来によかれと思い、無理して4年制大学に進んだが、奨学金返済が足かせとなって風俗嬢になった女性の記事を朝日新聞で読んだ覚えがある。遠い世界の話ではない。我々の身近なところで、気の毒な女性が「運命」という名の罠にはまって呻吟している。
「赤線地帯」や「洲崎パラダイス 赤信号」「吉原炎上」など邦画界にも売春を描いた作品は少なくない。その多くが女性の「幸せになりたい願望」を根底にしている。彼女たちの苦界からの叫びは文学上の大きなテーマだ。
「ANORA アノーラ」は気丈な女の奮闘劇。「赤線地帯」は様々な事情を抱えた女たちの群像劇だった。さて、この「娼生」は……答えを劇場で確かめてほしい。
(配給=ライツキューブ)
(文=森田健司)