吉川潮(作家、演芸評論家)

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6月×日 このところ寄る年波で、めっきり読書量が減った。とは言え、好きな芸人が新刊を出すと読みたくなる。タブレット純は「ムード歌謡漫談」を演じるピン芸人だが、歌手として、晩年の和田弘とマヒナスターズのメンバーだった。昭和歌謡の研究家としても知られ、最新刊の「青春歌謡聖地純礼」(山中企画 2000円)は、読んでいるうちに懐かしの青春歌謡がよみがえる。

 歌手の三田明、美樹克彦、梶光夫と対談したり、舟木一夫の出生地や「高校三年生」の歌碑を訪ねたりする。作詞した丘灯至夫の遺族へのインタビューもマニアならではの視点である。昭和百年ということで、ブームになっている昭和歌謡を深掘りした本だ。

6月×日 立川談慶は落語家として稀有な著作数を誇る。なんと27冊目という新刊が「狂気の気づかい」(東洋経済新報社 1760円)である。これは師匠、立川談志に関する著作の集大成というべき作品。慶応大卒で一流企業に就職したものの、落語家になる夢が捨てきれず、敬愛する談志に入門する。何をやらせてもドジな前座として、談志の怒りを買いながらの修行ぶりは、可笑しくも哀しい。二つ目昇進で後輩に抜かれ、9年半もかかって昇進するまでの間に、上司に対する気づかいのノウハウを会得するのだ。立川流の元顧問としては、彼の苦労が報われて、1冊の本になったのがたまらなく嬉しい。亡き談志の姿や声を思い浮かべながら読んだ。

6月×日 桂竹丸は歴史上の人物を主人公にした新作落語を演じて評価を得ている。初の著作が、「桂竹丸の戦国ひとり旅」(敬文舎 2200円)というのもうなずける。島津義弘、武田勝頼、石田三成、前田利家、淀君の5人を取り上げ、落語家ならではのユニークな視点で歴史を紐解く。系図と年表が充実しているので、歴史の流れがわかりやすいし、史跡や城郭の写真がオールカラーなのもいい。

 得意のジャンルを持つ芸人は、本を書いても成功するということか。

【連載】週間読書日記

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