書肆 海と夕焼(府中・分倍河原)築70年の木造平屋の書店は隠れ家のよう

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 分倍河原駅近くの「かえで通り」から、路地を数メートル進むと、トマトやゴーヤーが茂っていて、かわいい木造平屋の家が立っていた。1建物に2軒形式。向かって右が、小さな新刊書店「書肆 海と夕焼」だ。縁側から「こんにちは」──。

「どうぞどうぞ」と出てきてくれた店主・柳沼雄太さん(34)が、こちらの気持ちを見透かしたように、「私もここへ初めて来たとき、『隠れ家だ』と思いました」と。築70年。3部屋あり。縁側の脇に「防空壕の跡」も──なんて話をひとしきり。

 入って中央の平台に、ロラン・バルト著「物語の構造分析」、庵原高子著「句集 由比ヶ浜」、野島直子著「多和田葉子の地図」、「中上健次短篇集」などが平積みされているのを見て、「文学!」と身構えるも、「すすめたいなー、(その本について)話したいなーと思うものを300タイトル置いています」と柳沼さんのにこやかな対応に、身構え中止。

「すすめたい、話したいと思う300タイトルを置いています」

「ご自分でも小説を書いていたり?」

「そういう時期もありましたが、今は文芸評論をしています」 

 卒論は三島由紀夫論。新卒でweb広告の営業職に就き、「外回りの途中に寄った、石神井公園の古本屋の棚」が、今思えば、自分の本屋をイメージするきっかけになったとのこと。時を経て、2軒の独立系書店の貸し棚に参加。分倍河原に2021年開店の「マルジナリア書店」からは、本棚2つ分の選書を頼まれ……。

「牛歩の歩みでしたが(笑)」

 目下の生業は、文具メーカー勤め。ここ「海と夕焼」実店舗は、昨年5月から週1日だけ開けている。「ダブルワークの理想の形かもですね」と言うと、柳沼さんは少し照れつつ、「これまでに最高の100冊を仕入れた」と芥川賞作家の町屋良平著「生きる演技」を手に取った。さらに「書肆侃侃房の文芸誌で読んでピンときて、これも大量仕入れした」と池谷和浩著「フルトラッキング・プリンセサイザ」も持ち、それらへの熱い思いを話してくれる。私など門外漢だけど、耳に心地よいのだ。“柳沼マジック”おそるべし。

 あ、赤坂の本屋「双子のライオン堂」が刊行している文芸誌「しししし」がある。文フリで「エッセイムーブメントに呼応する文芸誌」と話題を呼ぶ「随風」もある。と、私の視界も広がった。

私が書いた本

「ひびをおくる」柳沼雄太文 鳥野みるめ写真 1500円

「西荻窪の『BREWBOOKS』で知り合った写真家の鳥野みるめさんと一緒に作った小説です。最初に、鳥野さんが5枚の写真を送ってくる。それは鎌倉の風景写真だったのですが、そこからイメージを膨らませて私が物語を作る。すると、また鳥野さんが次の5枚の写真を送ってきて、私が物語の続きを書く……ということを繰り返してできあがった、私の最初の小説です」

 2021年1月に200部発行。残り数冊になった。

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