お気に入りのブランドへの愛情が崩れる瞬間…パッケージが左右するコーラとペプシの評価

公開日: 更新日:

「消費者に商品を提示する方法が、その価値への認識を大きく左右する」

 Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラなど世界を創り変える覇者達からマーケティングを任されるイギリスの起業家、スティーブン・バートレット氏は指摘します。

 バートレット氏が直接体得した仕事と人生に効く33の重要原則をまとめた『執行長日記 THE DIARY OF A CEO』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

 たった1つの取るに足らないミスで、お気に入りのブランドへの愛情が打ち砕かれた。

 日ごろから、私は頭のてっぺんからつま先までそのブランドで固めていた。何年か前に、創業者のストーリー、ビジョン、細部へのこだわり、創造力、芸術的センス、1つ1つの傑作に注ぎこまれた高度な技術を知って、このブランドに夢中になった。オリジナリティにあふれた、比較的高価格帯のカジュアルブランドだ。

 あの運命の日、何気なくSNSを見ていたら、その創業者が投稿した動画が目に留まった。彼は自身の作品が形となる中国の生産ラインを視察していた。作られている製品の数、製造方法、生産ラインを管理するプロセスを示すことで、事業の規模の大きさやブランドの急成長をアピールするための動画だった。

 その瞬間、魔法が解けた。私がそのブランドに抱いていた、うっとりするような幻想は跡形もなく消えた。

 私が衝撃を受けたのは、製品が中国で生産されている事実でも、服を作っている労働者の顔でも、生産ラインの状況でもなかった。私がまさに動画を見ているときに履いていた靴が、巨大な機械から吐き出され、何千もの同じ靴の山に投げこまれる光景だった。そのとき着ていたTシャツが、特大のゴミ箱みたいな容器に入った何千もの同じTシャツの上に無造作に積み重ねられ、容器の端からはみ出した光景だった。

 けっしてブランド側がそうと明示したわけではないが、のぼせ上がった私の心は、彼らの商品はどれも、創業者自身が丹精こめて手作りした唯一無二の芸術作品であると思いこんでいた。論理的に考えれば、どこかで大量生産が行われていると見当がついたはずだ。けれども、こうした憧れのような感情に論理は当てはまらない。すべてを決めるのは、我々が信じることにしたストーリーだ。そのときまで、ブランドが紡いできた唯一の物語は、芸術性、比類なきもの、あふれるロマンだった。

 包装は受け取る側に大きな影響を与える。商品をどのようなフレームに入れるかによって、消費者のブランドに対する認識や評価が左右される。この瞬間、私のお気に入りのブランドのフレームは取り返しがつかないほど変わってしまった。

 これは新たな行動学的発見ではない。1970年代に行われた有名な「ペプシ・チャレンジ」キャンペーンでは、最初にペプシとコカ・コーラをただの白いカップで飲み比べてもらい、その後、ブランド名の入った缶やボトルでも飲んでもらった。カップで飲んだときにはペプシのほうが好評だったが、驚いたことに、缶やボトルで出されると多くの参加者がコカ・コーラを選んだ。ドリンクのパッケージによって、消費者の感じる味が変化したのだ。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • ビジネスのアクセスランキング

  1. 1

    クリーク・アンド・リバー社 井川幸広会長(1)プロフェッショナル人材の生涯価値の向上を掲げて全面サポート

  2. 2

    くも膜下出血で早逝「ブラックモンブラン」41歳副社長の夫が遺してくれたもの…妻で竹下製菓社長が告白

  3. 3

    ロピア(上)カトパンの夫が社長就任後に急成長 イトーヨーカ堂の7店舗を手に入れる

  4. 4

    ダルトンがあすか製薬へのMBOを断念…最高投資責任者が送っていた無礼なメールと素人じみたミス

  5. 5

    クリーク・アンド・リバー社 井川幸広会長(2)次に通らなかったやめる…すべてつめ込んで書き上げた“勝負企画”

  1. 6

    スノーピーク(上)キャンプブームを読み違え業績悪化

  2. 7

    元テレ東・高橋弘樹×元横浜DeNA・高森勇旗「見込みのない新規事業の止め方」…虚栄心で突き進む社長を誰が“殺す”のか?

  3. 8

    クリーク・アンド・リバー社 井川幸広会長(3)“天才”ジェームス三木の企画を前に悟った、努力だけでは埋めがたい領域

  4. 9

    スノーピーク(下)社の命運がかかった米国でのキャンプ場事業…山井太社長の悲願の行方は

  5. 10

    クリーク・アンド・リバー社 井川幸広会長(4)フリーランスの権利とギャラを守るために90年に29歳で創業

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ソフトバンクに激震!メジャー再挑戦狙うFA有原航平を「巨人が獲得に乗り出す」の怪情報

  2. 2

    山崎まさよし、新しい学校のリーダーズ…“公演ドタキャン”が続く背景に「世間の目」の変化

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    草間リチャード敬太“全裸騒動”にくすぶる「ハメられた」説…「狙った位置から撮影」「通報が早い」と疑問視する意見広がる

  5. 5

    維新の「議員定数1割削減」に潜む欺瞞…連立入りの絶対条件は“焼け太り”狙った露骨な党利党略

  1. 6

    山崎まさよし公演ドタキャンで猛批判 それでもまだ“沢田研二の域”には達していない

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  3. 8

    「これが寝るってことだ」と感激…女優の岡崎友紀さん変形性股関節症との苦闘

  4. 9

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  5. 10

    公然わいせつ容疑で逮捕→釈放も“連帯責任”…Aぇ! group草間リチャード敬太の芸能界復帰はイバラの道