「ブラック郵便局」宮崎拓朗著/新潮社(選者:佐高信)
選挙活動に駆り立てられる局長会の惨状
「ブラック郵便局」宮崎拓朗著/新潮社
小泉純一郎と竹中平蔵が組んで進めた「郵政民営化」に私は反対した。それが「民営化」という名の「会社化」だったからである。パブリックサービスの郵便事業に新自由主義を持ち込んで、「公」を追放する。その結果、社員はノルマを押し付けられ、自殺者が続出する現状を招いている。
本書を読みながら、私は日本郵政の初代社長が西川善文だったことを思い出していた。住友銀行のワンマン、磯田一郎の指揮下、イトマン事件が起こったが、西川はその現場の行動隊長だった。磯田は「向こう傷を問わない」をモットーに、違法でもいいから利益を上げろ、と行員の尻を叩き続けた。「向こう傷を問わない」は端的に言えば、そういう意味である。
それで教育された西川は、日本郵政にその方式を持ち込む。そして、NHKや「西日本新聞」が報じた「かんぽ生命」の問題は起こった。見当違いにも日本郵政はNHKに抗議して醜態をさらしたが、かつて磯田がNHKの経営委員会のトップだったことを考えれば、NHKは何とかなると郵政側が思ったとしても不思議ではない。
小泉は「自民党をぶっ壊す」と大口を叩いたが、残念ながら自民党は壊れていない。それを全国の郵便局の局長会が支えているという図式も「西日本新聞」の記者である宮崎は明らかにする。私は「世襲、裏金、統一教会」のSUTが自民党を堕落させたと強調しているが、郵便局も「世襲」がまかり通っている。
局長就任後に局長たちは口をそろえて「強制的に局長会に入会させられ、自民党の入党申込書にも署名させられた」と証言したという。そして自民党のための選挙活動に駆り立てられる。あまりのひどさに内部通報された局長会の統括局長がホンネをぶちまける。
「局長会っちゅうのは、選挙もやりますよ。選挙違反みたいなこともやりますよね。『あの人、仕事時間にお客さんのとこに行って選挙活動してますよ』と(内部通報を)やられたら、危なっかしくてできんもん」
そう言って内部通報者を脅す経緯は兵庫県知事の斎藤元彦にも似ている。
宮崎は「業務外の選挙活動と業務の保険営業を同列に扱い、人事権を振りかざしてノルマ達成を求め」る局長会の幹部らを批判しているが、局長会が擁立した候補はその結果、自民党の全国比例トップで当選してきた。メディアはこうした問題こそ取り上げるべきで、誰が当選するかの予想ばかりしている場合ではないだろう。 ★★★