背筋がヒンヤリ オトナの怪談・怪異本特集
「蠱囚の檻」加門七海著
暑い夏の定番といえばその筆頭はコワイ話だろう。かつては怪談、そして心霊話が人気の時代があったが、大人が読むなら「日常に潜む」怪異がお薦め。舞台が身近な分、ぞっとすること間違いなしの文庫4冊をご紹介。
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「蠱囚の檻」加門七海著
新宿署の刑事、魚名二郎は、友人との会食後、突然意識が朦朧とし、歌舞伎町で占い師をする柘植悠希とその義妹・水月が住むマンションに転がり込む。二郎を見た悠希は「何者かに蠱を放された」と確信。蠱は紀元前から使われる古い呪術で、放っておけば死ぬという危険な状態だったが、悠希に毒消しを施され、二郎は命拾いをする。
1週間後、二郎は水月に付き合って新宿へ買い物に出た。ところが、デパートで突然気を失った水月に紅龍が憑依。そして「新宿に古い血を持つ蠱師がいる」と二郎に伝える。そんな中、悠希のバイト仲間で蠱師を調べていた李が、何者かに殺される--。
話題を呼んだ呪術ホラーサスペンス「黒爪の獣」の続編。「蠱毒」と呼ばれる古い呪いにまつわる事件と、その謎を追う人々を描く。
(光文社 770円)
「黄夫人の手」大泉黒石著
「黄夫人の手」大泉黒石著
長崎の新地街の近くに祖母と住む貧乏学生の藤三は、転校生で上海から来た黄と親しくなる。黄が学校を休んだ日、藤三は彼の家を訪ねる。そこで会った黄の母親は以前、見かけたことのある美貌の女性だった。藤三は黄夫人・ややさんの姿に魅了されていく。
やがて藤三は、近所に住む黄の伯父・隆泰から、ややさんは後妻であり、黄の本当の実の母親は病的な窃盗狂で刑死したと聞かされる。そして役人は黄夫人の美しい右手を切り取って保存したのだが、伯父の家にあったその黄夫人の手が消えたという。隆泰と別れて家に戻った藤三が机の引き出しを開けると、女の手首が転がっている--。
大正文壇の寵児と呼ばれた異端の作家による怪奇小説集。ほかにも、呪いによって不死の体になった女性を描く「不死身」、妻を奪われた中国人男性が幽霊となって出るという旅館を描いた「戯談(幽鬼楼)」など全8編を収録。
(河出書房新社 990円)
「県境トンネルにまつわる怪異」七尾与史著
「県境トンネルにまつわる怪異」七尾与史著
1983年、駄菓子屋でゲームをしていた小学4年の鈴木達史は、クラスメートのトオルたちに絡まれ旧本坂トンネルに向かう。そこは地元では有名な心霊スポット。そのトンネルに大事なサインボールを投げ込まれ、達史は泣く泣く捜しに入り、そのまま姿を消してしまう。
1年後、達史の親戚で中学2年の文敏は剣道部の仲間と転校生・珠代を誘い、トンネル抜けを敢行。ところが最後尾にいたはずの龍太郎が出てこない。夜になり警察も駆けつける大騒ぎとなるが、その消息は知れないままだった。文敏らは、トンネルで消えた子どもたちがゲーム「イーヴィルデッド」をクリアしていたことに気づく。ゲームに何が潜んでいたのか……。
中学生たちが、異世界の邪悪な存在に立ち向かうモキュメンタリー(実写風)ホラー。
(実業之日本社 924円)
「怪談小説という名の小説怪談」澤村伊智著
「怪談小説という名の小説怪談」澤村伊智著
ホラー小説家の香川は、ある日、友人の柴田から不思議な話を聞かされた。それは柴田が新婚旅行で関西の某県の山奥にある高級ホテルを訪れたときのことだ。スタッフは素朴で景色も料理も素晴らしい。翌日、近隣を散策していた2人は看板に導かれて一軒の古びた旅館にたどり着く。引き返そうとした瞬間、薄化粧の女性が現れ「どうぞ」。お茶を振る舞われるが、何とも不思議な味がした。
ホテルに戻ると支配人から屋上のラグジュアリーコテージにアップグレードすると伝えられる。妻は大喜びするが、部屋に入ってしばらくして、2人はコテージに閉じ込められたことに気づく。一体、何のために……。そのときスタッフの一人がドアを叩き「逃げて。お客様は生贄にされかかったんです」。(「こうとげい」)
小説ならではの企みに満ちた怪談7編。謎めいた語りに背筋がぞっとすること間違いなし。
(新潮社 737円)