コロナ禍で食の大手企業が参入「デリバリー専門キッチン」の内幕②
コロナ禍ならではの新しい食ビジネスが注目されている。そんな中、国内外で約130軒の飲食店を運営する「ワンダーテーブル」が2021年10月、東京・元麻布に「元麻布デリバリーキッチン」を開業した。実店舗を持たず、デリバリーに特化した専門店だ。ハンバーガーやタイ料理など全く違う業態の数ブランドをひとつのキッチンで担う。
料理長を任されているのは、米・ニューヨークの老舗星付きレストランで修業した塩田洋介さん。同社の別店舗で経験を積んだが、デリバリー専門は初めての挑戦という。
「今まで培ってきたレストランの現場とはまた違うので、準備に半年以上かけました。配達を考え、重視したのは時間が経ってもおいしく召し上がってもらえること。食材の使い方にも苦労しました」
例えばデリバリー専門の第1弾として立ち上げたハンバーガー店「短角和牛専門店 TANKAKU BURGER」の場合、通常ならパティと一緒に生野菜をバンズに挟んで提供するが、時間が経つと野菜がしんなりし、全体のクオリティーが悪くなってしまう。そこであえて生野菜を使わず、ソースを野菜ベースにして別添えで提供することにした。なるべく出来たての味わいを楽しめる工夫だ。パスタは麺が伸びにくい黄エンドウ豆100%のグルテンフリー食材を厳選。保温性のある容器にもこだわった。
「家をレストランに」の発想
1番人気のハンバーガーを注文してみた。パティとチーズだけのシンプルな見た目だが、頬張れば上質な和牛のうま味がダイレクトに伝わってくる。パプリカとトマトを使うソースを付けて味わうと、まろやかな酸味とコクが加わってまた美味。ソースは他にもアボカドなど数種類ある。
「お客さまと直接向き合う機会が少ないので、反応が伝わらない面があります。でも、リモートワークなど自宅で過ごす場面が増えたコロナ禍では、逆にデリバリーの料理を通じてお客さまのプライベートに踏み込んでいける。豊かな食事時間を過ごしてもらえるよう、“家をレストランに”というアプローチの可能性を感じています」
同社はステーキハウスなど約15のブランドを国内外で展開している。昨年の実店舗の売り上げは時期によって9割減の店もあり、業態で差があったという。ウィズコロナ時代を見据え、今後はファストフードとは違う付加価値を付けたデリバリー専門キッチンを都内に増やしていく予定。
元麻布に開業したキッチンでも、近々に「短角牛ハンバーグ専門店」など新ブランドを立ち上げる。現在は宅配を委託しているが、いずれは自社デリバリーも考えているそうだ。
コロナ禍前と大きく変わりつつある飲食業界。企業の大小に関係なく、臨機応変に対応できる柔軟さが生き残るカギになるのかもしれない。=この項おわり
(取材・文=肥田木奈々)