リビングイメージ 渡辺誠一郎CEO(3)北海道産の蕎麦の実を石臼で挽いてみたら…
蕎麦打ち40年、コーヒー豆焙煎30年
茨城県つくば市市之台第二自治会の集会所「善隣亭」が建てられたのは今から25年ほど前。森に隣接する遊休地の一角に建てられた集会所を、地元の人たちは親しみを込めて“秘密基地”と呼ぶ。
秘密基地ができて間もなく、そこに集う住民有志10世帯ほどが「市之台ねぶたの会」を結成する。近所の幼稚園の夏祭りを盛り上げ、子どもたちを喜ばせようという思いからねぶたの山車灯籠を造ることにしたのだ。
山車灯籠造りは、2000年ごろから映画「となりのトトロ」に登場する猫バス造りに変わり、14年には猫バス2号が完成する。ゴルフ場のエンジン付き大型カートをベースにした猫バスは、小さい子どもなら10人くらい乗せて走ることができる本格派。見た目も映画の猫バスそっくりで、実によくできている。
1997年から07年までシリコンバレーで半導体ベンチャーを経営していた渡辺さんがねぶたの会に参加するのは08年。猫バス2号の製作が始まる少し前のことだ。
「猫バスの骨格造り、エンジン回り、それと安全のためアラウンドモニターを設置してあるんですが、その電気系統などを担当しました」
妻の祐子さんをはじめ女性陣はカートを覆う布地を切ったり、貼ったり、ふわふわ感を出すために袋状にして詰め物をしたりした。猫バスそっくりに仕上がったのは女性陣の努力のたまものだ。
“秘密基地”で40人分の蕎麦打ち
ねぶたの会では春と秋に親睦会が開かれる。その席で、渡辺さんが蕎麦打ちの腕前を披露するのが恒例になっている。
「会のメンバーとゲストを含めて40人分くらいの蕎麦を午前中いっぱいかけて打ちます」
参加者が増えるにつれて1人では手が足りなくなり、志願者を募って弟子を2人育てた。それもあって、ねぶたの会の中で渡辺さんは蕎麦打ちの師匠と呼ばれている。
当初、お楽しみ会用に40キロほどの蕎麦粉を購入していたが、一昨年は物は試しと北海道産の蕎麦の実を購入し、石臼で挽いて打ってみた。
「そうしたら、あまりのおいしさにみんな興奮しちゃって。蕎麦の実が少し余ったので、これをまいたら、またおいしい蕎麦が食べられるぞということになって──」
余った実を秘密基地近くの空き地にまくと、収穫した蕎麦の実から3キロほどの蕎麦粉がとれた。市之台産の蕎麦粉を渡辺さんが打つと、コシが強くて喉ごし滑らかな十割蕎麦になり、「めちゃくちゃおいしかった」。
これに味を占め、昨年は約200平方メートルの畑に蕎麦の実をまくことに。
昨年12月12日、市之台産蕎麦の収穫祭が秘密基地前で開かれた。渡辺さんをはじめとする蕎麦打ち班、蕎麦がきマスター、天ぷら班などがそれぞれ自慢の腕を振るい、おいしい蕎麦を堪能した。
趣味の蕎麦打ちで地元が大いに盛り上がる。趣味人冥利に尽きるというものだ。 =つづく