居場所なき定年夫…妻の怒りを買う「勘違い」と「食事問題」、朝日新聞が切ないエピを掲載
定年後は自宅でゆっくり……。漠然とそう思っている男性には、ショッキングかもしれない。5月21日付「朝日新聞」の1面には、中面記事の紹介で「『週3日は外に出て』妻は言った」との見出しが躍っていた。定年後の自宅には、夫がゆっくりできる居場所はないらしい……。
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朝日の記事は、連載「定年クライシス 居場所はどこに」の1回目の記事だ。連載タイトルにあるように定年後の夫婦のすれ違いがテーマで、目を引く初回は妻から週3回の外出を義務づけられた夫が主人公だった。詳細は朝日の記事を読んでもらうとして、そのさわりを紹介しよう。
滋賀に住む70代の男性は、退職して間もない66歳のころ、コンビニでランチ用のおにぎり2個を買い、最寄りのJRの駅から電車で琵琶湖をぐるりと一周。最寄りの手前の駅で降りて帰ったそうだ。3時間以上乗車しても、料金は1駅分だけ。1人分の年金では生活費がカツカツで、昼食代と電車賃を節約せざるを得なかったという。
「何をしていいか分からず、電車は(小説を読むのに)ちょうどいい書斎だった」
切ないエピソードがつづられている。
「朝日新聞の記事は、男性読者には切ないでしょう。しかし、女性読者は満場一致で主人公の妻に共感するはずです」
こう言うのは、男女問題研究家の山崎世美子氏だ。山崎氏は女性だから女性側につくのは当然かと思いきや、男性のキム・ミョンガン氏も同じ意見だった。キム氏は、セックスに関する相談窓口「せい相談所」の代表として、数多くの男女から相談を受けている。そのキム氏が続ける。
「定年夫が口にする『ゆっくり』は自分だけのことで、妻を含まない。これが問題なのです。つまり、夫は自宅でゴロゴロして、食事や洗濯、掃除などの家事はすべて妻が引き受ける。妻が夫の外出を望むのは当然です。60代から上の世代は、いまより専業主婦が多く、妻は仕事で夫を送り出すと、10~12時間は家事をしながら自由にできた。定年夫がゆっくりすることで、妻は自由時間が奪われるわけで、夫が亡くなるまで“夏休みの子ども”を引き受けるような状態が続く。そりゃあ、なぜ仕事もしない夫の食事を用意しないといけないのかと、妻が怒るのは当然ですよ」
朝日の記事の夫が“外出条件”を突きつけられたのは、妻が夫の食事の用意にイライラしたのが原因だった。「昼ご飯、作りたくない」との宣言に、夫は驚いたと振り返っている。「驚いた」くらいだから、妻の怒りに気づいていないことがうかがえる。山崎氏は「定年を巡る夫婦の意識の違いがとても大きい」としてこう言う。
「定年前後になって妻や家庭を求める夫は、『家庭を顧みなかった罪滅ぼしに』『これからは家族サービスを大事にしたい』などと言いますが、妻にとって、もはや夫はどうでもいい。家事や育児に忙しい30~40代の相談したいときに、夫がそばにいてくれなかったので、多くはいまさら夫に期待しなくなっていますから、むしろ近くにいられるとうっとうしい。
さらにカチンとくるのが夫の『家族サービス』という言葉です。夫にとっては夫婦で過ごすことは“サービス”かもしれませんが、妻にとって食事の支度や洗濯は“サービス”ではありませんから。夫が仕事を定年で辞めるなら、主婦を“定年”したいと思っている妻は山ほどいます。だから定年をめぐる夫婦の“壁”としてとにかく大きいのが、『食事をいつまで用意するか問題』なのです」