北新地のクラブ街の端にたたずむ「天平」の絶品一口餃子…どの客も数十個単位でペロリ
あれは1990年。まだ若くて真面目な会社員だったころのことだ。
バブルが崩壊。営業だったアタシはそれまで電話一本で済んだ仕事が10倍の労力をかけても決まらなくなった。
そんなときに大阪エリアも担当することに。不安を抱えて乗り込んでいった大阪で、初めて会った得意先の担当者の第一声が忘れられない。
「で、なんぼでやってくれるんでっか?」
段取りも根回しもあったものではない。その直截な物言いに腰を抜かした。なるほど。これが大阪流か。それなら逆に俺の肌に合っているし、意外と面白くなるかもしれないと思った。
その後、仕事がうまく運び、先方の担当者と祝杯。彼いわく「銀座に比べたら劣るけど、ミナミより格調高い」北新地で飲み、仕上げにうまい餃子を食おうということで連れていかれたのが、今回の「天平」である。
かなり遅い時間だったにもかかわらず、派手な女性と酔客で店内はいっぱい。彼らは競って餃子を注文していた。「40個頼むわ」「こっちは50個や」「30個追加してんか」。ここは数量で注文するのか……と思った瞬間、「こっちに60個とビール2本」。いきなり連れが叫んだ。えっ! 60個? いくら一口餃子でも多過ぎる、と正直思ったが、結局ペロリと平らげてしまった。
その小ぶりの餃子を3つほど口に放り込んで噛みしめると、パリパリの皮の食感とネットリした餡が口中にあふれ、幸せ満載。アタシはこの一口餃子にはまり、大阪に来るたびに寄るようになった。