“そういうこと”を求められて――芸能界で夢を追う娘からのSOS。頬はこけ、目にはクマ…送り出した母の後悔
芸能界に憧れていた娘
世間を揺るがす芸能界のさまざまな噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸能界ですが、昔はグレーなこともたくさんあったのだとか。かつて芸能業界に近しい場所で働いていた女性が見た光景とは?
「うちの子ね、小さい頃からずっとテレビに出たいって言ってたんですよ」
そう話してくれたのは、地方在住の主婦・Kさん(50代)だ。娘・美咲(仮名)は高校を卒業してすぐに上京した。
夢は芸能界で活躍すること。地元では誰もが知る美人で、文化祭では毎年主役を務める存在だった。親としても「この子ならきっと成功する」と信じていた。
最初は順調に見えた。小さな事務所に所属し、雑誌の読者モデルやエキストラの仕事を少しずつこなしていた。
Kさんも、娘が現場の写真を送ってくるたびに「頑張ってるんだな」と誇らしい気持ちになったという。
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娘が泣きながら「辞めたい」と…
だが、上京から一年が経つ頃、美咲の連絡が急に減った。
「電話しても“いま忙しい”って言われて、LINEも既読にならなくて。仕事が増えてるんだろうなと思ってたんです。でも、なんとなく声のトーンが暗くてね…嫌な予感はしていました」
数カ月後、ようやく娘から連絡があった。
「お母さん、ちょっと話したいことがある」
電話の向こうで彼女は泣いていた。「もう辞めたい」とだけ言った。理由は語らなかったが、Kさんはただ「帰っておいで」と言うしかなかった。
変わり果てた娘が告げたこと
帰省した娘の顔を見た瞬間、Kさんは息をのんだ。痩せて、頬はこけ、目の下には濃いクマ。以前の明るさが完全に消えていた。
「何があったの?」と問うと、美咲はしばらく黙っていた。そして、ゆっくり口を開いた。
「仕事をもらうために、そういうことを求められたの。断ったら、“次はない”って言われた」
Kさんは、その“そういうこと”の意味を理解するまでに少し時間がかかったという。言葉を失ったまま、ただ娘の手を握った。
何も知らずに送り出したことを後悔
美咲によれば、あるテレビ関係者を名乗る男性から「プロデューサーを紹介する」と誘われたのが始まりだった。会食では業界の有名人の名前が次々と出てきたという。
最初はただの食事会だと思っていたが、後日「次は個人的に会おう」と連絡が来た。
断れば仕事がなくなる、受ければ自分が壊れる。その狭間で、美咲は心をすり減らしていった。
「娘は“自分が悪い”って言ってました。夢を叶えたくて東京に行ったのに、いつの間にか“誰かの機嫌を取るため”に動くようになってたって」
Kさんの声は震えていた。
「親として何もしてやれなかったのが悔しくて…何も知らずに送り出した自分が情けないんです」
心身を立て直すまでに1年以上
その後、美咲は事務所を辞め、しばらく地元で静養した。SNSも削除し、芸能関係の知り合いとも距離を置いた。心身を立て直すまでに、1年以上かかったという。
それでもKさんは「娘が生きて帰ってきてくれたことが救いだった」と語る。
「同じように夢を追ってる子がたくさんいると思うんです。だからこそ伝えたい。あの世界は、才能や努力だけではどうにもならないことがあるって。娘の体験を“噂話”で終わらせたくないんです」
芸能界の闇は、当事者だけでなく、その家族までも飲み込む。娘が流した涙の裏には、母親の知らぬ苦しみがあり、その母親の涙の裏には、「信じて送り出した自分への後悔」がある。
生きててくれたから、それでいい
美咲は今、地元で会社員として働いている。芸能界の話を自ら語ることはないが、Kさんいわく「ようやく笑うようになった」とのこと。
「でも、テレビで“夢を追う若者”の特集を見ると、私はチャンネルを変えてしまうんです。あのときの娘の顔が、どうしても浮かんでしまって…」
夢を叶えるはずの世界が、人の心を壊すことがある。華やかなライトの裏で泣く人の存在を、私たちはどれほど想像できているだろうか。
「うちの子は、もうテレビには出ないと思います。でも、それでいいんです。生きててくれたから」
Kさんはそう言って、静かに笑った。その笑顔の奥には、まだ消えない痛みがあった。
(おがわん/ライター)