目指せ、1円玉大!ミクロの世界 タナゴ釣り探訪記
小さいほど価値がある、江戸時代から脈々と続く風流の極み
釣った魚が小さければ小さいほど楽しい──こんな常識外れの釣りがある。江戸時代から伝わる伝統の「タナゴ釣り」がそれ。何しろ「1円玉大」の魚を釣り上げて喜色満面! というのだから訳が分からない。タナゴとはどんな魚なのか、どうやって釣るのか、どんな所で釣れるのか。
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「タナゴ釣りを知るには、ココへ行け!」
ある釣り名手に教えられて、我孫子の手賀沼近くのタナゴ釣り専門店「たなきち」を訪ねた。タナゴ釣り未経験のユーマさんと一緒だ。店長は、タナキチ(熱烈なタナゴファン)として知られる田中育男さん。界隈では“育房さん”の愛称で親しまれている。
■可憐で華麗で愛らしい
「タナゴは10センチで大物、アベレージは4~5センチという世界一小さな釣魚。大きな魚を釣るより、1円玉大(直径2センチ)が釣れるようになって初めて一人前」なのだそう。
魚体は小型でも引きは鋭く小気味いい。釣り上げれば可憐で華麗で愛らしく、目がクリッとして愛嬌もある。
「江戸時代の大名たちの間で流行し、現代に脈々と受け継がれてきた風流を極めた釣りなんです」
江戸の“大名釣り”とはどんなものだったのか。
「釣り場に金屏風を立てて、周りに腰元たちをはべらせ、仕掛けやエサ付けなどは家来任せ。釣り糸は当時ナイロンなんてありませんから、腰元の長い髪の毛を使っていたようです。それも、処女の髪の毛が珍重されたらしいです」
若い娘の髪の毛は艶があって伸びがよく、切れにくいというのである。
店内を見渡せば、タナゴという風流でミクロな釣り世界に対応した極小優美な釣り道具がズラリ。
たとえば竿だ。
「ホソ(溝・水路)や溜まり、小規模な池の岸辺が主要ポイントで、竿は長くて1メートル前後、通常は50センチほど。カーボン素材の振り出し竿もありますが、伝統の江戸和竿(竹竿)の並継ぎ竿でビシッと決めるのが粋。ちょっと高級な象牙の竿なんてのもあります」
全長55センチの5本継ぎの場合で、しまい寸法は14センチほど。スーツの胸ポケットやポーチに入れて持ち運べる。
「竿がこれだから、ウキもハリもオモリも何もかもが小さくて、弁当箱程度の箱や巾着袋に釣具一式がすっぽり収まります。老若男女だれでも、お手軽に釣れるということで、『一生楽しめる釣り』なんです」