「ホームレス文化」小川てつオ著

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「ホームレス文化」小川てつオ著

 著者は20年間、都内の公園でテント生活を送っている。2005年に始めたホームレスの日常を発信するブログ「ホームレス文化」をまとめたのが本作。テント村には「一般人」には見えないコミュニティーがあって、個性豊かな人たちがゆるくつながりながら暮らしている。隣人たちを描く筆致はやさしく穏やかで、ときにユーモラス。この一冊の中に、たくさんの人間ドラマが詰まっている。

 著者はテントの前で物々交換カフェ「エノアール」を運営している。テント村の人たちは落ちている物、捨てられた物で生活を組み立てる。ここは物たちの終着駅。それぞれに創意工夫があるテント村の風景を眺めて著者は、「ぼくにとって美しいものなんだ」と感じる。

 テント村には絵を描く人がいたり、菜園をつくる人がいたり、猫を何匹も飼う人がいたりする。でも、決して平穏ではない。中学生3人組に襲撃されたり、犬の散歩中の白人男性が「犬糞爆弾」を投げつけたりする。そんなとき、著者は相手を追いかける。どんな気持ちでやったのかを尋ね、やめてほしいと伝える。

 大雨の日、テントの中はトンネル工事のような大騒音。図書館に行った著者は、ふと「建物はすごい」と思う。雨音もせず、風もなく、暑くも寒くもない。でも、人工的な環境にはなじめない。

 行政側の排除の方針と、住人の高齢化が進んで、テントの数は大幅に減った。アパートや施設に入る人もいれば、テントの中で亡くなる人もいる。それでも野宿者であり続けるのはなぜだろう。隣人の一人が著者にこんなことを言う。自分は終わりの場所と思ってここへ来たが、小川さんたちはここから何かを始めようとしている、と。

 著者とその仲間は、演奏しながら街を歩いて店の売れ残りをもらう「もらい隊」を結成したり、野宿者当事者団体「ねる会議」で排除に抵抗するなどの活動もしている。意識的に野宿者であることは、所有や管理でがんじがらめの社会にあらがう、体を張った表現なのかもしれない。

(キョートット出版 2640円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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