(46)年金だけではまかなえない。「生きる」のはあと何年──
母の83歳の誕生日、鉢植えのシクラメンを抱えて施設を訪れた。母は「ありがとう」と言ったきり黙って外を眺めていた。何を思っていたのか、何か言いたいことがあったのかわからない。ただ、確かに「ありがとう」は聞こえた。
後日、介護費用に関する説明があった。要介護度が2から5に上がったことで、月々の費用が大幅に増えるという。母の年金だけではまかなえない金額だった。
主な理由は、おむつ代と食事の全介助費用の増加だった。夏ごろから排泄のコントロールが難しくなり、さらに自力で食べようとする意欲も低下してしまった。食事の介助には人手が必要で、その分の費用がかかるのは当然だ。だが、具体的な金額を聞き、私は思わず小さなうなり声を上げた。
今も、母の年金では足りない月の差額は母自身の貯蓄から支払っているが、このペースで減っていけば、あと何年もつのだろうか。そして、その先は──。
この施設は医師や看護師が常駐しているわけではない。夜間は職員が少数残るだけの、ごく小さな民間施設である。母のケアは、その限られた環境と人手のなかで行われている。私には到底できなかったことなので、心から感謝している。