「戦下の歌舞伎巡業記」岡﨑成美著
「戦下の歌舞伎巡業記」岡﨑成美著
2018年の夏、著者は本棚で「おじいさんの大事なもの」と上書きされた古い封筒を見つけた。「旅行日誌」と書かれた小冊子が入っていて、1ページ目の昭和7年10月の項に「九州巡業ノ途ニ就く」とある。歌舞伎狂言作者だった祖父の地方巡業の備忘録では?
数えてみたら二百五十余の巡業地が記録されていた。太平洋戦争開戦の昭和16年をみると、ほかの年に比べて地方で切符が売り切れた劇場が多い。この年の売り切れ率は54.5%にも上る。12月8日にはアメリカとの戦争が始まるのに、歌舞伎のような娯楽に熱中することが許されたのか。
大歌舞伎一座の巡業記録が伝える戦時下の意外な演劇界の状況。
(河出書房新社 3520円)