すい臓がんのスペシャリスト なぜ起業を思い立った<前>

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がんリスク検査「サリバチェッカー」開発 砂村眞琴さん

 日本人の2人に1人がなるといわれる。年に1回の検診だけでは不安という人も多いだろう。かといって人間ドックは高くつくし、そもそも忙しくて受けるヒマがない……。そうした人たちの注目を集めているのが、唾液1滴で検査できるがんリスク検査「サリバチェッカー」だ。唾液中の代謝物をAIで解析することで、体に負担をかけることなく男性は肺がん大腸がん・すい臓がん・口腔がん、女性はそれらに乳がんを加えた5種のがんの罹患リスクを判定できる。2017年のリリース以来、全国1100の医療施設で導入。コロナ禍で家庭用キットも好評だ。

  ◇  ◇  ◇

 このサリバチェッカーを開発・販売しているのが山形県鶴岡市に本社がある「サリバテック」。代表取締役の砂村眞琴さんは現役の医師で、東京・練馬の「大泉中央クリニック」の院長でもある。もともとは東北大学の医学部でがん研究やがん治療にたずさわってきたスペシャリスト。会社の社長、病院の院長、二足のわらじを履くのには、「もっと早くがんを発見できれば、より多くの命を救えたはず」という医者としての後悔がある。

 生まれたのは東京・葛飾区。母方の祖父が同地で開業医をしており、その別宅で生後しばらく暮らした。さかのぼれば伊達藩の藩医という名家。ただし父は普通のサラリーマンで、幼稚園の入園時に練馬区に買ったマイホームに引っ越している。

 高校は世田谷の東京学芸大学付属に進学。当時盛んだった学園闘争や学生運動の影響で学校がバリケード封鎖され、授業もほとんどなかったため、入学直後から部活のサッカーに明け暮れた。

「当時としては珍しい芝生のグラウンドがあって、釜本や杉山といった日本代表のスター選手も練習に来ていました。それを間近で見たくて、入学したようなもんです(笑い)」

 3年生になってもほとんど授業を受けず、ベトナム反戦デモに参加するなどしていた。そこではやりの反体制思想に触れ、さらには祖父が開業医だったこともあり「父親のような会社に使われる人生は嫌だ。自由に生活できて、人の役に立つ仕事をしたい」と、医者を志す。

決してエリートコースを歩んだわけではなかった

 しかしすでに卒業間近。勉強らしい勉強をしてこなかった。担任も「絶対に無理」と“逆のお墨付き”。そこで砂村さんは2年計画を立てることに。

「当時は浪人1年で合格すれば上出来、2年で普通と言われてましたから、2年間駿台予備校に通うことにしたんです。その1年目が人生で一番面白かったですね。学生運動に熱中していたヤツらがたくさんいましたから、授業はちょっとだけ出て、あとはそいつらと喫茶店にたむろして文学談議や政治談議をして過ごしました。でもその時に、自分の生き方についても真剣に考えましたね。哲学書を読んだり、友達と議論したり。その結果、やっぱり自分はちゃんとした医者になりたいんだと確信して、2年目からは真剣に勉強しました」

 しっかり勉強すればちゃんと成績も上がる。第1志望ではなかったが、弘前大学医学部に入学を果たす。

「弘前って雪が深くてね。しかも受験のために泊まったのが岩木山の中腹の旅館。そこからバスで雪道を1時間近くかけて試験会場に通ったのを覚えてますよ」

「すい臓がんが治せればどんながんでも治せる」

 大学卒業後は青森県立中央病院に研修医として就職。小児内科を希望したが満籍だったため、小児外科に所属する。そこで後に恩師となる人物と出会う。東北大学の助教授をしていた能登陞外科部長だ。

「砂村クン、すい臓は面白いぞと。特にすい臓がんは転移しやすく手術も難しい。すい臓がんが治せればどんながんでも治せる。その難しいがんにチャレンジしないかと言われまして……」

 2年の研修後、東北大学医学部に入局。それが24年もの長きにわたる“すい臓がんのスペシャリスト”の道のスタートだった。 =つづく

(聞き手=いからしひろき)

▽すなむら・まこと 1953年、東京生まれ。弘前大学医学部卒業後、青森県立中央病院を経て、東北大学医学部第一外科入局。24年間にわたりすい臓がんのスペシャリストとして活躍。2007年、大泉中央クリニック院長に就任。10年、東京医科大学八王子医療センター消化器外科・移植外科兼任教授に就任し、唾液中の代謝物の人工知能解析の研究に携わる。13年、株式会社サリバテックを設立。17年、唾液1滴でできるがんリスク検査「サリバチェッカー」を提供開始。

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