すい臓がんのスペシャリスト なぜ起業を思い立った<後>

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がんリスク検査「サリバチェッカー」開発 砂村眞琴さん

「すい臓は面白いぞ」

 研修医時代に出会った恩師の一言で、東北大学医学部に入局。発見した時には手遅れであることが多く、手術も難しいすい臓がんの治療のために、全精力を傾けた。

「最も夢に近づいたのは遺伝子治療。がん細胞だけで増える特殊なウイルスを使って実験したら、見事にがん細胞が死にました。臨床応用したかったのですが、倫理的な問題からストップがかかり、実現できなかったんですけどね」

 24年にわたって歩んだすい臓がんのスペシャリストの道。しかし東北大学以外の出身者が、トップである教授になれる可能性は低い。ナンバー2である准教授まで上り詰めたところで、セカンドキャリアを考え始める。

「“コトー先生”のような地域医療をやりたいなと。さらには長野の農村に病院を立ち上げた若月俊一さんという伝説の医師の本を若い頃に読み、こんな生き方ができたらと憧れていました。そうしたら地元の練馬で院長が高齢のため手放したがっている病院があるという。ならばと経営を引き継ぐことにしたんです」

 それが今の大泉中央クリニック。2007年に大学を辞め、練馬の住宅街にある小さな病院を買い取った。

「ところが来て初めて毎月の売り上げが赤字だということが分かりました。近所に新しいクリニックがたくさんできて、患者さんが離れてしまっていたのです」

研究成果を実用化し社会に還元する事業の大切さ

 そこで最新の医療器具を入れるなど、信頼できるクリニックへと立て直しを図った。病院の買い取り費用を含めると初期投資は数億円。巨額の借金を背負っての第二の人生のスタートだった。

 それでもなんとか毎月の売り上げを黒字化し、経営を軌道に乗せた2010年ごろ。テレビで「唾液でがんが分かるようになった」というニュースを知る。ネタ元は山形県鶴岡市にある慶応義塾大学先端生命科学研究所。偶然にもチームリーダーの曽我朋義教授は東北大学時代からの旧知の仲だった。

 さっそく電話してみると、それは「メタボローム解析」という、唾液中の代謝物をAIで調べ、さまざまな疾患の有無を判定する最新技術。体に負担がかからず、手軽にできるこの検査方法であれば、自覚症状がほぼないすい臓がんも早期発見しやすい。東北大学の消化器外科医時代、すい臓がんのスペシャリストと呼ばれながら、手遅れで救えなかった命をたくさん見てきたベテランにとっても朗報だった。さらに曽我教授の言葉が、砂村さんの胸を躍らせた。

「一緒にやりませんか」

 東京医科大学の杉本昌弘教授を紹介され、すい臓がんに特化した検証を共同で行うことに。大泉中央クリニックの患者1000人の唾液を収集して調べたところ、すい臓がんだけでなく胃がんなどにも応用できることが分かり、研究に弾みがついた。そして3つ目のキャリアに挑む。

「東北大学時代の一番の反省は、研究成果を出しても論文発表するだけで終わっていたこと。ちゃんと実用化し、社会に貢献して初めて意味があるんだと、強く思っていました」

 2013年、“最先端の医療技術と研究成果を世に出し、社会に還元する”ことをミッションとする会社、サリバテックを設立。意義に共感したクリニックの複数の患者が、各自1000万円ずつ出資してくれた。

 そして17年、唾液1滴でがんリスクが検査できるキット「サリバチェッカー」を開発。以来、全国の医療施設1100カ所で導入され、コロナ禍においては自宅でできる「@HOMEサービス」が好評である。

 医者と社長、二足のわらじを履く砂村さん。「毎日家に帰るとバタンキュー」という忙しさだが、高齢者向けの健康サービスなど、新たな事業の実現に向け、策を練る。

「そういうアイデアが頭に浮かぶのは、私が医者として日々患者さんと接しているから。現状で満足するならクリニックは辞めていいのですが、絶えず前進するには刺激が必要なんです」

 まるで大谷翔平の二刀流。医療ビジネスの新時代を切り開いていくだろう。=おわり

 (聞き手=いからしひろき)

▽すなむら・まこと 1953年、東京生まれ。弘前大学医学部卒業後、青森県立中央病院を経て、東北大学医学部第一外科入局。24年間にわたりすい臓がんのスペシャリストとして活躍。2007年、大泉中央クリニック院長に就任。10年、東京医科大学八王子医療センター消化器外科・移植外科兼任教授に就任し、唾液中の代謝物の人工知能解析の研究に携わる。13年、株式会社サリバテックを設立。17年、唾液1滴でできるがんリスク検査「サリバチェッカー」を提供開始。

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