“銀座で最も勢いのある”クラブのママ コロナとどう闘う?

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唐沢菜々江さん(銀座クラブ「Nanae」オーナーママ)

 日本を代表する社交場、銀座。バブル期には3000軒あったとされるクラブは今や半分ほど。そんな状況でビル一棟を丸々借り上げ、総工費約5億円をかけた新店をオープンして話題となったママが唐沢菜々江さんだ。しかし、座るだけで4万円の超高級店を経営する“銀座で最も勢いがある”ママにもこのコロナ禍は相当な痛手であろう。2度目の緊急事態宣言が出された直後の1月半ばに直撃したところ、意外やあっけらかんとこう言った。

「第3波になるんでしたっけ? こんなに長引くとは思っていませんでしたけど、仕方ないですよね。売り上げも100%に戻るとは思っていませんが、いろいろなことを考えながらやっていこうと思います」

 水商売のキャリアは18歳の時に地元春日部のスナックで幕を開けた。たまたま知り合いが勤めていて、遊びに行ったら「週1回でいいから」と頼み込まれた。

「一人っ子で知らない人と話をするのは苦手でしたが、どうしても断れなくて……」

 当時夜学に通いながら、昼は保険の外交員や移動パン屋など別の仕事もしていた。体力的にも厳しく、1年足らずで足を洗う。しかし21歳の時、再び夜の世界に舞い戻る。

「結婚、出産したのですが、夫が詐欺に遭い、莫大な借金を抱えてしまったんです。他にもシロアリ駆除の費用とか、身内の借金の肩代わりとか、合計するととても地道に働いていては返せない額。それで仕方なく産後2カ月で復帰することにしたんです」

 人の良い性格が招いてしまった不運。しかしそれが今の成功への入り口でもあったのだから人生は皮肉だ。

「あの時の苦労は、ママになるためだったのかもしれませんね」

最初の自粛期間では2カ月の休業

 その後、22歳で上野のキャバクラに移り、瞬く間にナンバーワンに。やがて噂を聞きつけたスカウトマンに誘われ銀座へ。そこでもすぐにトップの座を射止め、29歳でママに。夫とはとうに別れ、女手ひとつで息子を育てながら、夜の世界で着実にステップアップしていった。それからいくつもの高級クラブを渡り歩き、2018年に満を持してオープンしたのがクラブ「Nanae」だ。

「現役時代は1億円プレーヤーだった時期もあり、稼ぐだけなら雇われママでよかったんです。結婚願望も一応ありましたしね(笑い)。でもオーナーじゃないと自分の思い通りにならないことも多く、後輩のママからも“早く自分で店を持ってくれないと後がつかえている”とせっつかれたんです。それでようやく重い腰を上げたという感じですね」

 総工費5億円のうち3分の1は借金だが、積み立てていた終身保険を担保にした貸し付けや、個人借りも金利を付けて事業計画書も添えるなど堅実な面もある。以前から銀座でワインバーを経営していたのも経験として生きたに違いない。しかしオープンして3カ月間は「まったく記憶がない」と菜々江ママは言う。

「オープン直後はいわゆる“ご祝儀”期間で、関係者や昔からの馴染みのお客さまがこぞってお祝いに押しかけてくれました。だから忙しすぎて、飲みすぎて(笑い)。体が強いのが取りえなんですが、さすがにボロボロになりましたね」

 当時はアベノミクスの好景気がそろそろ終わろうかと噂されていた時期。中には「今なぜ店を? ここから景気は下がる一方なのに」と言う客もいたが、「それでも最初の1年半くらいは順調でした。なだらかな右肩上がりだったのですが、そこにいきなりのコロナ禍。最初の自粛期間では2カ月の休業も余儀なくされてしまいましたから、打撃は大きかったですね」。

 家賃や人件費など、何もしなくても固定費は月に2500万円以上かかる。しかもオープンを予定していた美容サロンは内装工事が完全にストップ。そこの家賃やスタッフの人件費も払い続けなければならない。

 さすがの剛腕ママも万事休す――しかし、意外なことに活路を見いだす。それは前年から始めていたユーチューブだった。

ユーチューブやSNSでスタッフを集める

「最初の緊急事態宣言の時は2カ月休業しました。解除された直後もすごく売り上げが悪くて、それでも少しずつ持ち直してきたのですが、そこに再び緊急事態宣言。午後3時から8時までの短縮営業をしていますが、この1年は例年の半分ほどしか売り上げがありません」

 しかし、指をくわえて嵐が過ぎるのを待っているようでは、銀座のママは務まらない。毎日のように融資や助成金の手続きなど金策に駆け回るだけでなく、リアルでダメならネットとばかりにユーチューブやSNSによる発信にも力を入れた。

「ネットによる発信は以前からやっていました。銀座は格式が高すぎる、厳しいというイメージがあり、なかなか働き手が集まらない中、多くの女性や黒服などのスタッフが来てくれるのはSNSのおかげです。昔はそうしたものはNGというのが銀座の不文律でしたが、もう時代的に(内情を)隠し切れないと思うんですよね。じゃあうちが先陣を切って、逆に利用するつもりで突き進んで行こうと思って」

今やチャンネル登録者数11万人の人気ユーチューバー

 銀座の現役ママが人生相談やメーク指南、クラブの裏側紹介、プライベート密着などの動画を次々に上げれば話題にならないわけがない。昨年は人気女性ユーチューバーの「てんちむ」が入店し、売り上げにも貢献した。2度目の緊急事態宣言が発せられた後も、ここぞとばかりに生ライブ配信やオンラインクラブの運営など“デジタルシフト”にぐいぐいと舵を切っている。

 しかし、先輩のママからは「やり過ぎよ」と叱られることもあるという。確かに古き良き銀座の伝統を壊しているようにも見えるが、根底には革新ママなりの銀座観と銀座愛がある。

「私が銀座に来て20年。お客さまも少しずつ変わってきていると思います。例えばお客さまの誕生日にハッピーバースデーを歌いながら、スマホやポラロイドカメラで写真を撮ったりするのは今でこそ普通ですが、以前は隣の席でそんなことをしたら怒って帰ってしまうようなお客さまもいましたから。

 一方で、古き良き銀座の格式は守らなければいけないと思っています。例えばホステスの教育。もしお客さまが接待で2日続けていらしても、“昨日はどうも”などと言ってはいけません。何事もなかったかのように接客します。ドレスも安物のペラペラな生地はご法度。髪も毎日セットします。それは私が先輩に、“銀座は仕事を終えたお客さまがシャツもネクタイも替えてパリッとした格好で飲みに来る場所だから、女性もみすぼらしい格好や乱れた髪で水割りを作ることは許されない”と教えられたから。だんだんラフにはなってきていますが、一線は守りたいですね」

 そのため、開始予定のオンラインクラブも銀座の格式は失わないように心がけている。一度担当についたら永久に変えられない「係制度」も維持。ただしオンラインに限り女性の承諾があれば一見客も受け入れる。締めるところは締め、緩めるところは緩める、それがトップママの経営術だ。

 実は同クラブ以外にもワインバーや美容サロン、印刷会社などいくつもの会社を経営するやり手の実業家だ。このコロナ禍も、実業家としては、マイナスなことばかりではないようだ。

「休業期間にそれまで忙しくてできなかった経営の勉強ができたのはプラスでした。実は水商売にどっぷりという気持ちは私の中にはもうなく、これからは経営者として本腰を入れてやっていくつもりです。あ、結婚する夢はまだ捨ててませんよ(笑い)。借金を返し終わった頃に、できたらいいなと思ってます」

 最後に理想のタイプを聞いてみた。

「器の大きい男性が好きです。財布の大きさ? 自分で稼ぐから大丈夫よ!」

(取材・文=いからしひろき)

▼唐沢菜々江(からさわ・ななえ)
 1974年、埼玉県出身。18歳の時に定時制高校に通いながら春日部のスナックでアルバイト。22歳で上野のキャバクラに勤めナンバーワンに。25歳の時にスカウトされ銀座へ。29歳でママになる。複数の高級クラブでママを務め、2018年、銀座にクラブ「Nanae」をオープン。他にワインバーや美容サロンを経営。登録者数11万人を超える人気ユーチューバーでもある。会員制オンラインクラブが間もなくオープン。

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