出張型で企業の健康指導を プロのヨガ講師が起業するまで

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沖知子さん(ブレストラン代表、プロフェッショナルヨガ講師)

 忙しくて息をつく暇もない――そんな現代人にこそ、この“おいしい呼吸のレストラン”でじっくりと味わってほしい。ただし店はどこにもない。プロフェッショナルヨガ講師が運営する出張型の健康経営サポートサービスのことで、「リアルブレス」という呼吸法をメインとした健康指導を行っている。

「リアルブレスとは、ヨガの呼吸法をベースに私が独自に考案したものです。横隔膜を意識して行うところに最大の特徴があります。目的としているのは、呼吸を整えることで、最終的に心も整えること。いわゆる瞑想状態ですが、そうした境地に近づくのは修行を積んだお坊さんなどでなければ難しい。それでも、誰でも簡単にその境地に近づけるよう、しっかりと体にもアプローチしながら、自分の呼吸、ひいては自分の心と向き合うことを第一としています」

■リモートワーク中の人にこそオススメ

 肉体的な健康だけではなく、心の健康すなわちメンタルヘルスも重要視されている昨今、大げさな道具がいらず、オフィスの椅子に座りながらでもできる手軽さが受けて、2017年の会社設立以来、100社近い企業に請われて健康指導を行っている。コロナ禍の今こそ直接対面するレッスンは減っているが、オンラインによるリモート指導が好評だ。

 実は記者も取材でリアルブレスを体験すると、自宅のリビングや通勤途中、オフィス、入浴中や睡眠前に気軽にできるのが便利だと感じた。以前から興味はあったが、わざわざヨガ教室に通うほどの気力と時間がなかったからだ。それが非常に手軽で、ほんの数分で頭がすっきり。リフレッシュした状態で仕事に取り組めるため、リモートワーク中のサラリーマンにこそぜひオススメしたい。

ヨガとの出合いは18歳

 そんな伝道師がヨガと出合ったのは18歳の時。当時流行していたホットヨガを入り口に、ヨガにのめり込んだ。やがて4年制大学を卒業し、大阪の寝具メーカーに勤めた後も趣味として続けていて、現在のようにヨガで生計を立てようとまでは考えていなかった。それが大きく転換したきっかけは、身内を襲ったある不幸だった。

「21歳の時に5歳上の姉を卵巣がんで亡くしたのに続いて、その3年後、今度は父を大腸がんで亡くしたんです。57歳でした。私もまだ若く、命なんて永遠に続くように思えていた年頃だったので、この立て続けの出来事は本当にショックでした」

 大切な家族の突然の死。人はいつか必ず死ぬという冷酷な現実と、健康の大切さを痛感した。そして頭に思い浮かんだのがヨガだった。

「生きているうちに自分のやりたいことをやりたい。会社を辞めてヨガのインストラクターになろうと決めたんです」

 職場が気に入らなかったわけではない。すでにインストラクターになっていたわけでもなく、ましてやヨガで生計を立てられる見込みも全くなかった。しかし肉親の死の衝撃が心を突き動かした。

 25歳で単身上京。吉祥寺のアパートに住み、アルバイトを掛け持ちしながらヨガのインストラクターになるための学校に通った。

「吉祥寺に決めたのは、案内してくれた人が、夜にハモニカ横丁に連れて行ってくれたから。田舎とは違って賑やかで、こんないいところがあるんだって感動して、ここに住もうって決めちゃったんです」

■アルバイトを掛け持ちする日々

 アルバイトは居酒屋と、将来、会社を起こす時のために会計事務所などを掛け持ちした。インストラクターの資格は1年弱で取得できたが、すぐに飯が食えるほど甘い世界ではない。しばらくアルバイトも続けながら、スポーツジムやヨガ教室などで、フリーのインストラクターとして働いた。しかし、なかなかパッとしない日々が続く。

 そんなある日、降って湧いたようにチャンスが訪れた。知人からミス・ワールド・ジャパンへの出場を打診されたのだ。

ヨガ講師はたくさんいる 目立つにはどうする?

 プロのヨガ講師の道を目指したのは25歳だった。21歳の時に5歳上の姉を卵巣がんで、24歳の時に父を大腸がんで亡くしたのがきっかけだ。「当時の私はまだ若く、命なんて永遠に続くとばかりに思っていたので本当にショックでした。だから生きているうちに自分のやりたいことをやりたいと思ったんです」

 それまで勤めていた会社を辞め、ヨガインストラクター養成学校に入学するために単身上京。アルバイトを掛け持ちしながら、1年ほどで資格を取得。フリーのヨガ講師として活動を始めた。しかし、なかなかパッとしない日々が続く。

 そんなある日、知人からミス・ワールド・ジャパンへの出場を打診される。本来ミスコンの類いに興味はなかったが「ヨガ講師はたくさんいる。埋もれないためには、何かの肩書があったほうがいい」と思い、出場することにした。

 ミス・ワールドはミス・ユニバース、ミス・インターナショナルと並ぶ3大ミスコンで、見た目の美しさだけでなく、社会貢献活動の有無や社会課題についての意識なども問われるのが特徴。日本代表となるミス・ワールド・ジャパンの選考方法もユニークだ。

「20人くらいのファイナリストに残り、いよいよ優勝者を決めるための試験のひとつに、陸上自衛隊での特訓というのがあったんです。敬礼などの団体行動から始まり、最後はチームになって要救助者を担架で運ぶということをしました。要救助者役は血まみれで迫真の演技。教官からは“そんなことじゃ死ぬぞ!”と怒鳴り散らされて、まさに身のすくむ思いでしたね」

 日本代表の座は逃したものの、その年から新設された特別賞「ミス・ヨガ」に選出。活動の一環として、奈良にある世界遺産の寺院で寺ヨガをしたり、6月の国際ヨガデーに合わせスカイツリーで公開ヨガレッスンを行ったり、「普通のインストラクターではできない体験をたくさんできた」という。その頃からひとつの思いが芽生え始めた。

「ヨガについて発信する機会を頂けば頂くほど、今のやり方で本当に良いのか? と思うようになったんです。以前は自分のヨガスタジオを持つのが夢でしたが、それだと健康意識の高い一部の人としか接点がない。もっと手前の大勢の人たちに、ヨガの魅力を伝えなければいけないのではと考えたんです」 

■呼吸ならどこでもできる

 そこで目を付けたのが「呼吸」だ。そもそもヨガの呼吸めいそうとポーズ、瞑想は一体のものだが、日本ではポーズが主流。広いスタジオでヨガマットを敷いて行うなど、大げさなイメージが強い。「だけど呼吸ならどこでもできる。しかも呼吸を整えれば体と心も自然と整いますからね。そんなことを知人と話している最中に“ブレストラン”という言葉を思いついたんです。本来無意識で行っている呼吸を意識して味わう、呼吸のおいしいレストランだって」

リラックス効果を“見える化”

 その「ブレストラン」を社名に会社を設立。健康経営に積極的な企業などへ営業に回る日々がスタートした。最初は普通のヨガとの違いを説明するのに苦労したが、試しにやってもらうと「頭がスッキリした」「仕事がはかどるし、よく眠れる」といった反響が続々。レッスン前後のストレス度をアプリで計測し、見えづらいリラックス効果などを“見える化”することにも努めた。そして開業して4年で、レッスンした企業は100社に迫り、インストラクターの養成も行っている。

「大事なのは継続すること。1日24時間のうちたった数分でいいから、呼吸を大事にして欲しい。それは自分をケアする時間。命は限りあるものですからできるだけ健康に過ごすべきだし、自分を大切にできない人は他人にも優しくなれませんからね。そしていつかは、ラジオ体操のように、毎朝の“当たり前”になるといいですね」

(聞き手=いからしひろき)

▽沖知子(おき・さとこ) 1989年、広島県生まれ。2007年にヨガと出合い、14年に資格を取得。その後、フリーのインストラクターとして活動をはじめ、16年、ミス・ワールド・ジャパン初代ミス・ヨガに。17年に株式会社ブレストランを設立。ヨガの呼吸法をベースにした独自のメソッド「リアルブレス」を考案し、心身の健康の大切さを伝えるため、国内外のヨガレッスンや健康経営アドバイザーほか、テレビ番組出演や監修、モデルなど、多岐にわたって活躍中。コロナ禍でもオンラインでレッスンを継続している。

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