「ササニシキ」が消え「つや姫」がブランド米になった理由

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 日本のお米は、現在800を超える品種が登録されています。そのうち、いくつ品種名が挙げられるでしょうか。10も挙げられれば、かなり詳しいほうだと思います。お米屋さんでも知っているのは、30~150というところではないでしょうか。

 1980年代から現在に至るまで、圧倒的なブランド米として君臨しているのが「コシヒカリ」です。1956年から栽培が始まり、1979年から現在に至るまで、作付面積1位を維持しています。コシヒカリといえば、新潟県魚沼産が有名ですが、地球温暖化に伴い、コシヒカリは現在、北は青森から南は鹿児島まで栽培されています。

 ブランド米産地の魚沼に追いつけ追い越せと、各産地で品種改良、新品種の開発が行われてきています。近年、コシヒカリを超えるお米として頭角を表してきたのが、2009年の北海道「ゆめぴりか」、2010年の山形県「つや姫」の2品種です。どちらの品種も食感、風味、味の面でコシヒカリとは特徴が異なり、差別化されています。

 この2品種がブランド米になれたのは、北海道のホクレン、山形県庁の大きなバックアップのもと、広告戦略を行い、ゆめぴりかはマツコ・デラックスさん、つや姫は阿川佐和子さんをCМに起用し、一般消費者に認知されやすい戦略を取ったことが大きいといえるでしょう。当然、品質のよさもあり、一気に知名度を上げて、現在の地位を確立したと考えます。

 この2品種に近い戦略を行っている、2017年デビューの新潟県「新之助」に関しては、新ブランド米として伸び悩んでいる印象ですが、昨今の地球温暖化で品質悪化が指摘されている新潟県産コシヒカリの代わりとして、今後、消費者に受入れられる可能性があるように思います。

ブランド認知はプロモーション次第

 その一方で、消えていったブランド米もあります。1993年の大冷害に伴う不作、翌94年の猛暑の影響で品質が低下した「ササニシキ」はこれを機に品種転換が行われました。「ひとめぼれ」がササニシキに代わって新たに東北の太平洋側の主力品種になったのです。

 このように気候変動などが顕著になった昨今、ササニシキだけでなく、古い品種が次々と転換されています。

 ここ5~10年で登場した新品種についてはどうでしょう。福井県「いちほまれ」、富山県「富富富(ふふふ)」、岩手県「金色の風」、青森県「青天の霹靂」といった品種に関しては、ニーズが多く生産地でも手に入りにくい状況であれば、「ブランド米」と名乗ってもいいように思いますが、生産県が自らブランド米と称して販売する手法はいかがなものかと、いち米屋として思います。

 そもそも、5キロ2500円以上するお米を普通に購入できるのは、消費者全体の4〜6%程度です。ですので、数あるお米から選んでもらうには、かなり緻密な販売戦略が必要です。ブランド米としての認知は、本来、消費者が作り上げるもので、販売サイドがプロモーションを駆使して、最初から割高な値段で販売するのは、ファン作りを前提にしていないように思います。

■無名でもおいしい米はたくさんある

 資金力が豊富な都道府県のようなところが行う大規模な広告戦略以外の方法で、確実に消費者に広められるのは、生産地の情報を伝えられる限られた販売者だけのように思います。

 最後に、お米のプロとしてお勧めしたい、知名度はまだまだ低いものの、比較的リーズナブルでおいしく、新しい食感を感じられる品種を紹介します。街中でもし見かけたら、ぜひ味見してみてください。

 佐賀県「さがびより」「夢しずく」、山形県「雪若丸」、茨城県「ふくまる」、西日本を中心に栽培されている「きぬむすめ」「にこまる」などです。

 これらの品種は、現状の気候変動になんとか適応しており、比較的品質が安定した品種です。知名度が無いからこそ、安く手に入れることができます。

 こういった情報が一般的でなくなったのは、米屋の衰退や量販店で売られる有名銘柄の特価販売によって、消費者ニーズが奪われた結果だと思います。

 現在、コロナ禍で消費量が激減している日本のお米だけでなく、農家さんが丹精こめて栽培した農作物を、少しでも多くの方に食べていただける世の中になってほしいと願っております。日本の生産物を守れるのは、皆様それぞれのお気持ち次第なのです。

(文=常本泰志/米流通評論家・つねもと商店)

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