姉弟ふたりを中心に幾多の人生が交錯「湾」宮本輝著
「湾」宮本輝著
昭和34年の夏、小学5年生の光太は母から預かった5粒の植物の種と、冷たい氷枕で保護した上等の牛肉を持ってひとり大阪から列車に乗り、西舞鶴に向かった。駅では父親が異なる2歳上の姉、皐月ちゃんが待っていて、白杉漁港の先にある皐月ちゃんの「別荘」へ行った。その夜、皐月ちゃんに「湾からぎょうさん来てる」と起こされた光太は、2人で船着き場の先端へ。そこには足元の海面から大浦半島の手前まで魚の形をした濃い群青色の波があり、やがて足を投げ出した皐月ちゃんにまとわりつくように取り囲んだ。皐月ちゃんは妖術使いなんや──。
本書は、皐月と光太の姉弟ふたりを中心に3世代総計8人の家族が高度成長期の激動の中で年を重ね、幾多の人生が交錯していくさまを、令和を迎え74歳になった光太の回想として描いた長編小説。舞鶴の街や港、皐月の進学や跡取り問題、祖父たちがつくった財産の秘密などが、光太が子供の頃に見た舞鶴の光景と共に浮かびあがってくる。戦後から令和へと移るなかの、家族の何げない日常を彩る舞鶴湾の雄大な情景が印象的。光太の目を通した、人生の豊かで幸せな瞬間の数々が、湾の波のように静かに心に寄せてくる。
(新潮社 2420円)



















