フカヒレ商品が次々バカ売れ!“中華のアイデアマン”社長の頭の中

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「中華・高橋」社長 髙橋滉さん

 1953年に創業した中華食材卸ならびに中華食材の加工・販売を行う会社の3代目だ。主に扱うのはフカヒレや飲食店向けの加工食材・調味料。近年はBtoC、つまり一般消費者向けの小売りにも力を入れ、例えばクセのある羊肉もおいしく調理できるという触れ込みの万能スパイス「羊名人(ようメ~じん)」がSNSで話題になるなど、コロナ禍で気を吐いている。

  ◇  ◇  ◇

 ただし、今でこそ「業界のアイデアマン」と呼ばれるトップも、新卒で入社してしばらくは、本人いわく「ダメ社員。自分がやりたいことも明確になく、ダラダラと過ごしていた」。それが変わった――いや変わらざるを得なくなったのは28歳の時、2代目の父が肝臓がんで亡くなったからだ。

「いつか継ぐとは思っていましたが、まさかこんなに急とは。経営のことなど何も分からず、社長に就任して5年は、文字通り手探り状態でしたね」

 しかし、社長業の何たるかが分かってくると、少しずつ自分の考えや手腕を試したくなる。その結果、2代目の時から番頭的な役割を担っていた古参役員と度々ぶつかるようになる。

「向こうは本来自分が社長になるものと思っていたので面白くなかったのでしょう。ある日、部長・課長・係長クラス6人をライバル会社に移籍させてしまいました」

 昨日まで同じ釜の飯を食っていた仲間が、今日はライバル会社の名刺を持って取引先を営業している。冷酷なまでの手のひら返しに「ここまでするのかと驚きました。さらに造反者は増え、結局社員60人のうち15人が退職。ピンチでしたが、逆にエンジンに火がつきましたね。冗談じゃねえぞ(!)と」。

 まずは社長自ら取引先を回り、「中華・高橋は大丈夫ですから」と火消しに努めた。次にやったのが商品開発の強化だ。卸売業だけではライバル会社に購買力や価格競争力で負けてしまう。ライバル会社にはない、さらに言えば他の誰も持っていない商品を自ら作ることこそ「我々が生き残る道」と考えたのだ。

「実は父が気仙沼に600坪のフカヒレ工場を建てていたのですが、全て使いきれていませんでした。まずはここの稼働率を上げようと、フカヒレの商品開発と販路拡大に力を入れたのです」

 とはいえ、それまでの販路、すなわち高級中華料理店への販売は頭打ち。そこで目を付けたのが外食チェーンだ。

フカヒレがまさかの1000円以下

 実はフカヒレには種類やサイズがあり、高級中華料理店で珍重されるのは主に中サイズの尾ビレ。しかしそればかり仕入れるわけにいかず、必然的に他のサイズや部位は余ってしまう。そこで比較的安価な胸ビレを、尾ビレ同様においしく食べられるよう加工し、大衆的な価格の中華レストランチェーンに売り込んだのだ。

「胸ビレは尾ビレに比べて表面積が大きいので、器に盛った時に見栄えがするんです。それが1000円を切る値段で提供されるのですから、お客さんは驚きますよね。フカヒレがこの値段(!?)と。案の定、大ヒットしました」

 同じホテルの高級店でも、和食の店は盲点だった。しかしよく考えてみると、和食の方が冠婚葬祭と需要が多い。「高級食材である尾ビレのフカヒレの用途は多いはず」と直感した。

「フカヒレを細かく刻んで茶碗蒸しに散らすと一気に高級感が高まる。そう提案したら非常に受けまして、一時あちこちの高級和食店の茶碗蒸しにフカヒレがのるようになりました」

 さらには回転寿司のネタ、コンビニの中華まんの具など、それまで付き合いのなかった業態に次々と売り込んでいった。その結果、気仙沼の600坪の工場はフル稼働。本業に占めるフカヒレの割合も半分近くになった。

 しかしその直後、敏腕社長と会社の運命は急転直下する。2011年3月11日、高さ19メートルの大津波が工場のある気仙沼を襲ったのである。

大津波で3億円分のフカヒレが重油まみれに

「2つ工場があり、1つは海抜0メートルの魚市場周辺にあったので完全にアウト。しかも埋め立て地だったので地面ごと持っていかれました。見に行った時は何もない、ただの海でした」

 ただし、そこは旗艦工場ではなかった。600坪の敷地を誇る主工場は海の近くだったが標高16メートルの所にあった。しかし津波は19メートル。直撃されたら万事休すだったが、偶然手前にあった事務所棟と食堂棟が緩衝材の役割を果たし、被害は1階部分だけで済んだ。

「一番被害が大きかったのは市場の近くの営業倉庫。約3億円分のフカヒレが重油まみれの波をかぶってしまい、使い物にならなくなってしまいました」

 社員の人的被害が出なかったのは不幸中の幸いだったが、工場の停止と原料の損失は相当な痛手。そこに追い打ちをかけたのが当時付き合っていた銀行だった。

「短期の借金を今すぐ返済しろと。理由は被災企業だから。思わず耳を疑いましたね。噂には聞いていましたが、本当に雨が降って傘を取り上げるんだと。“長期の返済が終わったら二度とおまえたちとは付き合わない!”と啖呵を切って――その通り、4年前に返済が終わったらすぐ縁を切りましたよ」

起死回生の商品が前年比4倍の大ヒット

 被災直後は知り合いのツテで東京・大井町に臨時の工場を設立。社員の奮闘もあり何とか持ち直した。しかし、フカヒレに頼り切っていたことを反省。折しもフカヒレの国際的な保護の機運が高まり、リスクヘッジの意味でも他の業態の開拓や新商品の開発は急務。そこで髙橋社長が考えたのが、中華のプロ向けの総菜や調味料の開発だった。

「そのころ、100席以上の大箱の中華料理店が相次いで撤退し、食材卸のボリュームが激減。調理場の人材不足も叫ばれ始めていました。ならば手間を省ける本格的な総菜や調味料を提供すれば、お店に喜ばれると思ったのです」

 当然、店で出されるものだから味に妥協は許されない。そこで2013年5月、東京の自社倉庫の目の前に中華料理専用のテストキッチン、その名も「C’s Kitchen(シーズキッチン)」をつくり、商品開発に全精力を傾けた。

「支えてくれたのは、それまで付き合いのあった中華料理店のシェフたち。延べ2000人が、レシピや技の相談に乗ってくれました。いわば2000人の商品開発担当者がいるようなもの。おかげで、どこにも負けない本格的な味の中華総菜や調味料を作ることができました。これも60年、中華一筋だったおかげ。この時ほど祖父や父のありがたさを感じたことはありませんね」

 2年前からは、一般消費者向けの小売りやEC事業にも注力。生まれたのが万能スパイス「羊名人(ようメ~じん)」だ。

「7年ほど前から羊料理愛好家のイベント向けに少量ずつ作っていたのですが、あまりに好評だったので量産することに。そうしたら羊肉だけでなく、鶏肉にも豚肉にも牛肉にも合うとSNSで話題に。それを見た全国のスーパーが取り扱ってくれるようになり、おかげさまで今年7月は前年比4倍ペースの売り上げです」

■誰も通っていない道を行く

 父親の死、社員の裏切り、震災、コロナ禍……さまざまな苦境を乗り越えられた原動力は「他の誰も通っていない道を行こう」という反骨心と、社名にもある「中華」へのこだわりだ。

「これまでは中華料理業界の中で花を咲かせ、実を得てきました。ですがこれからは中華の種を中華以外の業界にまいて、どんなジャンルででも中華のメニューが貢献できるようにしたい。目下の目標は中華ピザをデリバリーの一品に加えてもらうことです(笑い)」

 髙橋社長のヤル気とアイデアがあれば、その日は遠からず来るだろう。

(聞き手=いからしひろき)

▽髙橋滉(たかはし・あきら) 1973年、東京都出身。祖父が創業した中華食材卸問屋「中華・高橋」に新卒で入社。28歳の時に2代目の父が亡くなり、3代目を継ぐ。中華料理店への卸が主だった事業モデルから、フカヒレの商品開発と販路の拡大に成功。しかし国際的なサメ保護の声の高まりに伴い、プロ向けの中華総菜や調味料の開発製造を強化。BtoCにも進出し、万能調味スパイス「羊名人」が、売り上げ前年比4倍とヒット中。 

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