売れ残った料理の購入代金を寄付するアプリtabekifuを開発 発想は夫との突然の別れ

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「タベキフ」代表取締役社長 坂入千佳さん

 飲食店の売れ残った料理を購入することで、その代金の一部が社会貢献団体に〈寄付〉されるアプリ「tabekifu(タベキフ)」を開発・運営する会社の代表だ。地方の自然栽培農業地を飲食店や消費者とつなぐ活動も行っている。

 事業を始めたきっかけは夫の死。夫は通信教育事業から会社を起こし、女性に人気の外食チェーンも幅広く手掛けた実業家だった(2012年死去)。

「ある日、心筋梗塞で突然。さっきまで元気で話していたのに……。会社経営は順調でしたが、人知れぬストレスがあったのでしょう。そうした働き盛りの人たちを、食を通して癒やす仕組みをつくりたいと考えたんです」

 生まれたのは新潟県新潟市。マンガ「ドカベン」のモデルとなった新潟明訓高校を経て、東京・江古田の武蔵大学に進学。上京してまもなく女子寮の仲間と一緒に行ったアルバイト先で出会ったのが、後に夫となるその会社の社長だった。

「資格試験の会場で、通信教育のビラ配りをするというものでした。会場がいくつかあり、それぞれに社員と学生がペアで行くのですが、たまたま組んだのが彼でした」

 当時千佳さんは19歳。一方彼は41歳。親子ほど年が離れていたが、「お互い何となくフィーリングが合って、その日のうちに映画を見に行く約束をしていた」という。

 相手は妻子ある身。千佳さんもそれを知りつつ交際を重ねていった。しかし、2人の間には不倫の後ろ暗いイメージはなかったという。

「彼といると自分が自然な状態でいられたんです。だから恋愛がどうとかではなく、ただ一緒にいると楽しい、安心できる、そんな感じのフラットな付き合いでした」

 しかし、世間の風当たりは強かった。千佳さんの両親は交際に猛反対。あいさつに新潟を訪れた彼を、親戚一同で問い詰めたこともあった。

「親戚は彼に対し、非常識な人間だと集中砲火。彼も最初はおとなしく聞いていましたが、最後は『千佳ちゃんのことは僕が幸せにするんだから、あなたたちに文句を言われる筋合いはありません!』って啖呵を切って出ていっちゃった。とにかく熱い人でした」

出会ってから10年越しのゴールイン

 そんなこともあり、千佳さんは大学を卒業すると実家に呼び戻され、父親の口利きで地元の一般社団法人に就職する。しかし彼は諦めずに毎週のように新潟に通い詰めた。やがて知り合いのツテで東京の大学に職員の仕事を見つけると、両親の反対を押し切り再び上京。働きながら、彼の離婚が成立するのを待ち続けた。

 そんなある日、父親ががんで倒れ、余命1年と宣告された。

「もしここで父が死んでしまったら、彼と一緒になっても幸せになれない、だから絶対に死なせないと思い、大学の仕事を辞めて再び実家に戻ったんです」

 当時、彼の経営する会社は、国家資格から女性向けの資格の通信教育に事業を転換しようとしていた。その中にあったのがアーユルヴェーダなどの東洋医学。事業のために学んだ知識や情報、そして高価な健康食品の提供など、あらゆる面から千佳さんをサポートした。その甲斐もあり、一度は医者にさじを投げられた父親の病状は回復。見事復活を果たした。

「その頃には離婚も成立していたので、ようやく父は2人の結婚にOKを出してくれたんです」

 その時、千佳さんは29歳。19歳で出会ってから、約10年越しのゴールインだった。

「働き過ぎの人たちを、食を通して癒やしたい」

 夫を支えるべく家庭に入った千佳さん。夫の会社は事業好調で、どんどん規模を大きくしていった。しかし比例して夫のストレスも増大。

「その頃よく言っていたのが『自分の意思とは関係なく会社が動き出してしまっている』ということ。社内外の人間との摩擦も増え、会社からボロボロになって帰って来るのも一度や二度ではありませんでした」

 千佳さんが30代前半の時には、今度は夫の父親ががんになった。しかし事業の転換期と重なりナーバスになっていた夫は、ひとりで米国ニューヨークに逃避行してしまう。

「仕事も看病も全て放り投げ、会社の反対を押し切って行ってしまいました。ですがその時にニューヨークで見つけたのが、とある韓国料理。そのおいしさに感動し『これを日本で広めたい』と、戻ってきてその専門店を始めたんです」

 その店は、韓国ブームの波に乗り大成功。現在はチェーン店化し、日本全国のみならず海外にも進出している。

 さらに1切れから食べられるピザや、野菜メインのタイ料理など、女性をターゲットにした外食事業を次々と展開。それが成功し、事業が拡大すればするほど、やはり夫のストレスは大きくなっていった。

「夫は社長といっても物を言いやすいフレンドリーな性格。家でもよく会議をしていましたが、途中で喧嘩になることもしょっちゅうでした。それを止めに入るのが私の役目。女性ということもありますが、昔から誰かの間に入って仲介する役が多かったですね」

 夫は心労が重なり、2012年に突然の心筋梗塞でこの世を去る。60代前半と働き盛りだった。ひとり残された千佳さん。大切な人がある日突然、目の前からいなくなってしまうという非情な現実を、しばらく受け入れられなかった。

自然栽培農園での収穫体験ツアーも企画

「さっきまであんなに元気に話していたのに……人間にはどうしても抗えないものがあるのだと痛感しました。これからどうやって生きていけばいいのか。カウンセリングの勉強などを通してたどりついたのが、食を通じた助け合いの事業を起こすことでした」

 それが、都心部で働くビジネスマンの胃袋と飲食店を支え、同時に世界の恵まれない人たちをも救う「タベキフ」アプリ。2019年に運営を開始したが、直後のコロナ禍で飲食店が休業を余儀なくされると、産地と消費地を直接結ぶ事業も同時並行でスタート。自然栽培農園を訪問して収穫体験などをするバスツアーを企画運営している。このことで「食の本当の課題に行きついた」という。

「生態系のバランスがとれた土に毎日触れている自然栽培農園の人たちは、この世には抗えないことがたくさんあることを知っています。その器の大きさに感動しました。また、農薬や化学肥料を使わない畑でとれた野菜は、胃腸だけでなく心のバランスも整えてくれるんですよ。でも残念ながらこうした野菜は全流通量のわずか0.5%以下。自然栽培農業に従事する人を増やし、このパーセンテージを上げるのが、私の使命だと思っています」

 より多くの人が元気に働き続けられる世の中を実現することが、亡き夫への供養だと信じて――。

(取材・文=いからしひろき)

▽坂入千佳(さかいり・ちか)1971年、新潟県出身。武蔵大学経済学部経営学科卒。学生時代にアルバイトを通じて知り合った通信教育や飲食事業の創業者と2000年に結婚。主婦として夫を支えるも12年に死別。カウンセラーなどを経て、19年に株式会社タベキフを設立。食品ロス解消アプリ「tabekifu」の企画開発・運用のほか、食を通じた社会貢献事業を行う。

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