前経営委員長代行の上村達男氏 “NHKの病巣”を解き明かす
この3年間、世間を騒がせてきたNHKの籾井勝人会長(73)が来年1月に任期満了で退任する。次期会長は現職の経営委員で三菱商事元副社長の上田良一氏(67)。「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」という異常な状態から、果たしてNHKはマトモな公共放送に戻れるのか。経営委員会委員長代行の立場で籾井会長の言動を批判し、退任後も真っ向からぶつかってきた気骨の法学者・上村達男氏(68)がNHKの病巣を解き明かす。
■自殺行為を寸前で回避した経営委員会
――籾井会長の退任が決まりました。
当然の結果だと思います。今回、経営委は指名部会で〈政治的に中立である〉〈公共放送としての使命を十分に理解している〉〈人格高潔である〉など、5つの資格要件を自ら設定しました。それに照らして「要件に該当しない」と判断したのでしょう。
――早い段階から「籾井会長の再指名は経営委員会の自殺行為」と激しく警鐘を鳴らしてきました。
籾井会長は「政治的中立」を求める放送法に違反する発言を、“個人的見解”と国会の場でも平然と言い張ってきた人物です。再指名すれば、経営委は“NHKの最高意思決定機関”としての存在意義を自己否定するところでした。それを回避できたのはよかったと思います。
■大声で怒鳴り散らし議論ができない籾井会長
――“個人的見解”とは、就任会見時の「政府が右と言っているものを左とは言えない」といった発言や、秘密保護法について「まあ一応、通っちゃったんでね。もう言ってもしょうがないんじゃないか」などと述べたことですか。
一連の発言が世論の強い批判を浴びるたび、私は「見解の中身自体が間違っている」と籾井会長に進言しました。ところが、会長はまったく聞く耳を持たず、ますます言動がひどくなっていった。大声で怒鳴り散らし、席を立って出ていってしまうこともありました。議論とか意見交換をまったくできない人なのです。問題発言については、「記者会見の場で個人的見解を発言したことは不適切だった」と釈明したものの、“個人的見解”自体は今も取り消していません。放送法に違反する見解を個人的見解としてきたのですから、過去一貫して、経営委が定めた資格要件に反し続けてきたわけです。今回、経営委が改めて資格要件に合致していると言えるはずがないのですね。
――NHKが様変わりしてしまったことを悔やまれているそうですね。
これは籾井さんというより政府の問題ですが、長年の不文律とされてきた経営委員の「国会同意人事」が有名無実化され、「政府任命人事」になってしまったことの最終的な帰結が籾井会長です。“理事の辞表預かり事件”ですっかり有名になったように、籾井会長が理事に対して人事権を振りかざし、自分が「敵」と見なす人を追放したり担務を勝手に変えたりとやりたい放題でした。ガバナンスの崩壊と人事の混乱によって報道や制作現場が萎縮し、「クローズアップ現代」のようなまっとうな番組を作ろうとすると、特に勇気が必要な状況になってしまいました。