機密費と情報公開 上脇博之氏が語る政治資金問題の本質
開かずの扉が開いた――。最高裁第2小法廷で1月19日、画期的な判決が出た。時の政権が無条件で使える内閣官房報償費(官房機密費)の使途をめぐり、大阪市の市民団体が関連文書の開示を求めた裁判で、これまで非公開とされてきた文書の一部について初めて公開を認める判断を下したのだ。領収書のいらない「掴みガネ」との批判がありながらも、使途について国は「国益に反する」との理由で一切の公開を拒んできた。
そんなかたくなな国の姿勢を突き崩すために市民団体の中心人物として闘ってきたのが、政治資金オンブズマン共同代表で神戸学院大教授の上脇博之氏だ。今回の最高裁判決の評価や不正が横行する政治資金問題について聞いた。
■機密費の使い方や公開について法整備が必要
――長い間、ブラックボックスだった官房機密費について最高裁が一部公開を認めました。まずは訴訟に至った経緯を教えてください。
10年余り前に官房機密費について情報公開請求をした時、官房長官から会計課長への請求金額が開示され、ほぼ1カ月に5000万円を2回、1年6カ月で計19億円近い税金が請求されていたのが分かりました。ところが、具体的な使途については一切分かりませんでした。
よく、「役所に情報公開請求したら、のり弁が出てきた」とか言いますよね。墨塗りされた真っ黒の行政文書のことを。ところが、官房機密費の使途については、のり弁さえも出てこなかった。1枚の行政文書も開示されなかったのです。
――1枚も開示されないとは驚きますね。
だから、すぐに国の担当者に電話しました。「官房長官が使ったわけだから、長官の名前ぐらい出せるでしょう」「日付は公開できるでしょう」と部分開示を求めたのですが、取り付く島もありませんでした。ならば「支出の行政文書は何枚あるのか」と聞いたら、それも「機密です」と。これはあまりに酷い対応で、情報公開法にも違反するのではないか。そう思って不開示処分の取り消しを求めて提訴したのです。
――最高裁判決では文書の一部開示が認められましたが、細かな使途は不開示です。今回の判決はどの部分が画期的だったのですか。
機密費のうち、交通費や会合費など領収書のある支出以外で、官房長官が政策の推進のためにほぼ領収書なしに自由に使うことができた「政策推進費」の受払簿の公開を命じたことです。つまり、官房長官が領収書なしに一体いくら使っているのか、という実態が分かる可能性が出てきたのです。
――領収書のいらない「掴みガネ」が解明されるきっかけになると。
そうです。官房長官は毎月、ざっくり言って1億円ぐらい使っていますが、このうち、交通費や会合にいくら使い、政策推進費にはいくら使っているのかが全く分かりませんでした。例えば、1億円の機密費に占める領収書のいらないカネが1000万円なのか、それとも8000万円なのか、によって全く意味合いが異なるでしょう。
最高裁判決は部分開示だったとはいえ、この「部分」が重要で、これまで1枚も出てこなかった行政文書が出てくる。国民に一番知られたくなかった数字が開示されるわけで、今まで全く開かずのままだった「本丸」の扉に大きな楔を打ち込むことができたと思っています。
――10年にも及ぶ機密費訴訟を続けてきた甲斐がありましたね。
国民には知る権利があり、国民主権の民主主義国家であれば情報公開は当然。行政には説明責任があります。私は専門が憲法なので、裁判を続ける意義はそういう理論的な部分もあったのですが、それよりも深刻だと感じたのは、機密費が裏の政治資金というのか、領収書不要をいいことに国の重要政策が買収されているのではないかということ。
時の政権が自分たちの政治支配を継続させるために機密費を都合よく使っているのではないかという疑いです。仮にそうであれば、正常な議会制民主主義は成立しません。だからこそ、情報公開請求し、裁判する価値があると考えたのです。