「なぜ日本のメディアはジャニーズ問題を報じられなかったのか」柴山哲也著/平凡社新書(選者:佐高信)

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長嶋バンザイに透けるメディアの堕落

「なぜ日本のメディアはジャニーズ問題を報じられなかったのか」柴山哲也著

 長嶋茂雄の死去を「朝日新聞」はじめ各紙が1面トップで報じたのにはショックを受けた。中村哲なら理解できるが、超保守派で黒い噂のスポンサーもバックにいた長嶋をなぜ手放しで礼賛するのか?

 この本を読んで、その理由が分かったような気がした。著者は「日本のテレビは、欧米先進国のテレビ報道に比べ、娯楽的要素が強く、ジャーナリズム性の欠如が甚だしいと思う。娯楽性の高さが政権や金権腐敗を隠すベールになっているのかもしれない」と指摘しているが、それは新聞にも及んだ。

 岸信介が絡んだインドネシア賠償汚職でスカルノにデヴィを紹介した久保正雄という政商がいる。この久保が長嶋の親代わりで、息子の一茂の名付け親にもなった。

 また、長嶋は歴代首相の指南役と言われた安岡正篤に師事し、遠征に出る時は、いつも安岡の本を最低3冊はバッグに入れて行ったという。

 そして清原和博が巨人に入ってキャンプで骨折した時、ギプスの包帯に「失意泰然」と書いたらしい。安岡に教わった言葉だろうが、清原はそれを理解できたのか?

 いずれにせよ、長嶋バンザイの各紙の報道には、こうした話は書かれていなかった。

 ここまで堕落した日本のメディアの現状を著者はさまざまな角度から分析していく。「記者クラブという病理」がこの本の副題だが、特権に安住する記者たちに人権の視点から権力を撃つことはできない。先日、「朝日新聞」のOBから、現役記者に「批判に意味があるんですか」と真顔で反問されたと聞いて驚いた。批判なくしてメディアの存在意義はないだろう。国境なき記者団が毎年公表する「報道の自由度ランキング」で、日本はだいたい70位前後をウロウロしているが、民主党政権時代に11位まで上昇したことがある。しかし、安倍(晋三)政権になって再び急降下した。

「書くべきことを書かず、書かなくてもいいことを書く」現在の日本のメディアの実態は長嶋死去の報道に最もよく表れている。大体、メディアは「巨人、大鵬、卵焼き」の多数派というか時流に乗らず、批判的な少数派の声に耳を傾けるものではないのか。

 元陸上自衛官の五ノ井里奈が性暴力を受けたことを日本外国特派員協会の記者会見で訴えた時、NHKとフジテレビ、テレビ東京はそれを報道しなかった。メディアの選別が必要なこともこの本は教える。 ★★★

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