「アメリカのいちばん長い戦争」生井英考著

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「アメリカのいちばん長い戦争」生井英考著

 かつて「アメリカ史上最長の戦争」といわれたベトナム戦争の終結から今年で50年。その間に「9.11」同時多発テロ後のアフガン戦争が最長記録を塗り替えた。そんなふたつの戦争の間に何が起こったのか──。

 アメリカ研究者である著者は「その間の時代の変化をたどると、今日のアメリカ社会の現状への道筋がみえてきます」という。第2期政権発足早々、ますます傍若無人のトランプが仕掛ける世論の分断もそのひとつだ。

「ベトナム戦争終結のためと称して当時のニクソン大統領がとった政略が有名な『サイレント・マジョリティー』。政権に敵対する反戦勢力をノイジー・マイノリティー(声高な少数派)と呼び、政権に逆らわない人々こそ多数派だと世論を二分し、その勢いで政局を乗り切ろうとしたわけです」

「サイレント・マジョリティー」の言葉は聞き覚えのある人もいるだろう。欅坂46のデビュー曲名だ。

「あの歌詞にも『どこかの国の大統領が』とありますね。でも歌のメッセージは大勢順応になっちゃダメという応援ソングで終わり。しかしそれだけでは、なぜこんなひどい世の中になったのか若者にはわからない。その歴史的なプロセスを俯瞰して伝えるのが昔を知る者の責任かなと思い、今回筆を執りました」

 本書は現代アメリカの分断の源流を“戦争”という新たな角度から読み解いたもの。ベトナム戦争の過程で始まった政治論争と対立、歴代大統領が対峙したものなど、知られざるアメリカ史を浮き彫りにする。

 ベトナム戦争は南ベトナム(当時)への限定的で小規模の軍事介入が発端だった。宣戦布告もない。なぜ50万人の米兵が投入されるほどの大戦争になったのか──そんな初歩の話から、綿密な戦略が現地で機能しない悪循環、徴兵の偏り……。我々は戦争といえば総力戦を思い浮かべるがそれとは異なる姿や、米国内では政治的対立が社会にまで影響をしていったことなど多彩な事実を明らかにしていく。

 戦後、平和外交に注力したカーター政権が短命に終わったのはポピュリスト的な姿勢が一因、そして戦後生まれのクリントン以後の大統領はみな軍歴がないなど意外な話題も豊富だ。

「私が大学生になったときはすでに反戦運動も退潮し、アメリカの戦争も終わっていました。崩れた現実だけが目の前にあるという点では、今の日本の大学生と似てます。私は、ずっとアメリカで初めての敗戦の屈辱にまみれた社会が、痛手を清算するのに失敗する姿を見てきました。アメリカは負けた事実から目をそらしたまま、戦後を進んできた。表向き傷は癒えたように見えても、根元のヒビは年を追うごとに広がり、いま手の付けられない状態になっている。つまり分断というより、共通理念や自信の崩壊ではないでしょうか」

 痛感するのは負け戦がもたらす負の遺産。

「トランプのいう『アメリカを再び偉大に』は、結局、ベトナム戦争の前のアメリカに戻したいという意味なんです。そこには“敗戦後”の年月への自省がない。真の教訓はむしろそれでしょう」

 著者が本書を「ベトナム戦争の敗戦後論」と呼ぶゆえんだろう。

「文芸評論家の故・加藤典洋さんは話題になった『敗戦後論』で負け戦が『ぎくしゃくした、ねじれた生き方』を強いると書いています。無謀な軍部を制止できずに始めたみじめな敗戦を清算もせず、戦後は朝鮮とベトナムというアメリカの戦争の陰で高度成長をとげ、バブルで踊ってまた失敗。それを『第二の敗戦』なんて呼んだまま放置しているのが日本の現状。トランプ現象はけっして対岸の火事ではないと思います」 (集英社 1100円)

▽生井英考(いくい・えいこう) 1954年福岡市生まれ。慶応大在学中に「三田文学」編集部で活動。87年、著書「ジャングル・クルーズにうってつけの日」でアメリカ研究の新鋭として注目される。立教大学社会学部教授、同アメリカ研究所長を歴任。他に「負けた戦争の記憶」「空の帝国 アメリカの20世紀」など。

【連載】著者インタビュー

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