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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

地理系ブックカフェ 空想地図(駒沢大学)店主の蔵書+お客からの寄贈本で地図関係1700冊

公開日: 更新日:

 表に「とろとろオムライス」とのぼりが上がっていて、店内に入ると、左手にオープンカウンターのキッチン。が、何より目を奪われるのは、右手に並ぶ本。「地理院地図の深掘り」「『暗橋』で楽しむ東京さんぽ」「東京の廃線・未成線全記録」、それに「地図で読み解く◯◯沿線」「地図の風景」シリーズと、私は次々アイコンタクト。奥に、模造紙大の「静浜市」地図が貼ってあり、これは?

「中学・高校時代に私が描いた、架空の町の地図です。静岡出身なので、静岡市の『静』と浜松市の『浜』で『静浜市』。昭和59~60年くらいの地図スタイルにのっとっています」と、店主の田中利直さん(54)。まさか手描き・架空だったとは。東西に鉄道が通り、市街地に城跡。微妙に幅の違う道路も詳細で、私など「この町の中に、いろいろな人生があるんだろうな」と感慨深かった。語りかける地図だ。

「小さいときに遊んだ地図パズルと、父がドライブであちこちに連れて行ってくれたのが、地図好きになるきっかけでした」と田中さん。小学校では絵日記代わりに「絵地図」を提出して褒められたが、中学以降は「人に言っても理解されない」と、自室でのクローズドの趣味に。

テレビ関係者の目に留まった空想地図「静浜市」

 京都の大学を卒業後、ファミレスチェーンに就職し、転勤族に。過去のものとなっていた地図への思いが再燃したのは47歳のとき。「当時、名古屋に住んでいて、東京出張の帰りに静岡の実家に寄って、押し入れで『静浜市地図』を見つけて」。持ち帰ったら家族が驚きまくり、娘がツイッター(当時)に上げたら、テレビ関係者の目に留まった。フジテレビ系「奇跡体験!アンビリバボー」に出演。地図出版の大手、昭文社の人たちともつながり、「空想地図」という分野があると知った。

 51歳で早期退職。店の構想を打ち明けたとき、妻のかよ子さん(50)は、「諦めさせる材料がなかった(笑)」。店の看板、とろとろのオムライスは、かよ子さんの実家に代々伝わるメニューだ。2022年9月にオープン。

 在庫1700冊。大半が田中さんの蔵書+お客からの寄贈本で、閲覧用だが、昭文社刊行本や、地図関係のジン(自主出版物)など200冊を販売。老いも若きも幼きも、地図マニアが、全国からやってきている。

◆世田谷区駒沢2-5-14 Kハウス駒沢B1/℡03.6450.7085/東急田園都市線駒沢大学駅西口から徒歩4分/12~21時(日曜祝日11~20時)/月曜休(月曜が祝日の場合は火曜休)

ウチの推し本

「東京のトリセツ」昭文社 1980円

「北海道のトリセツ」から「沖縄のトリセツ」まで47都道府県別に出ているシリーズ。1冊175ページ。丸ごとその都道府県が掘り起こされている。

「東京と大阪は2冊出ていて、東京の1冊目の副タイトルは『地図で読み解く初耳秘話』。今昔の地図を読み解きながら、地形や地質、交通、歴史、文化、産業など、多くの人が『初耳』と思うネタも多く紹介され、すごく面白いです」

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