文庫で読む住まいにまつわる本特集

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「そんな部屋、あります!?」秋川滝美著

 住まいはそこに住む人を映し出すという。家族構成や経済状況はもちろんのこと、住む人同士の力関係や、価値観や趣味の違いまで表れる。長い時間いる場所だからこそ、知らず知らずのうちに影響を受ける住まいについて、ここらで一度深掘りしてみてはいかが。



「そんな部屋、あります!?」秋川滝美著

 主人公は、不動産会社の賃貸仲介部門に勤める近藤麻琴36歳。キャリア14年目とあって、条件が厳しそうな客を担当させられることも多いものの、妥協点を探っては客の満足を引き出せるように日々努力をしている。

 しかし、そんな麻琴の手に負えないような厄介な客も時々やってくる。社宅取り壊しのため一軒家に住み替えたいという50代の夫婦、妻の妊娠を機に住み替えを考えて来店したものの夫婦喧嘩が絶えない夫婦、タワマンに憧れる妻と冷静な夫などなど、住まい探しを通してさまざまな家族と接するうち、6年付き合っている彼との結婚が怖くなってきた。果たして麻琴は、客の要望をかなえつつ自身も幸せになれるのか。

 行きつけの店で友人やマスターに愚痴りつつ、答えを見つけていく主人公に思わずエールを送りたくなる。 (講談社 825円)

「間取りと妄想」大竹昭子著

「間取りと妄想」大竹昭子著

 個性的な間取りに住む人たちが巻き起こす、スリリングで幻想めいた13の物語を収めた短編集。川にまたがる船のような家、玄関を開けると2つの扉が現れる家、双子が住む左右対称の家など、奇妙で何かありそうな間取りが冒頭に提示され、そこから物語が始まる。

 たとえば「浴室と柿の木」は、すでに妻を亡くし孫からおじいちゃんと呼ばれるようになった男の話だ。息子夫婦と2世帯住宅に住むにあたって、互いのプライバシーが保てるように庭の柿の木を境にして居住空間を分けたものの、本棚にした壁の一角からは柿の木越しに息子夫婦宅の浴室が見える。そんな間取りの家に住むうち、男は息子にはもったいないような出来た嫁におかしな妄想を抱き始める。

 住む人と共鳴する住まいの息づかいが感じられ、怪しさ満点の物語となっている。 (角川春樹事務所 770円)

「ジジイの片づけ」沢野ひとし著

「ジジイの片づけ」沢野ひとし著

 若い頃は部屋をモノであふれさせるのが喜びでもあった著者は、月日がたつにつれモノに囲まれた生活が疎ましくなった。心が晴れないときほど家の片づけをするのが一番だ。本書は、そんな境地に到達した著者が生み出した片づけ術をつづったエッセー。

「早朝10分間捜査」と名付けた毎朝10分間の片づけタイム、不安を感じたら窓を拭くなど具体策多数。中でも、引き出しの一番上を常に空っぽにしておくという独特の方法が面白い。病院に行く予定がある前日にそこに診察券、保険証、お薬手帳をセットにした袋と老眼鏡を入れておいて忘れ物を防ぎ、帰宅時には財布、時計、領収書などバッグの中身を全部そこに出して各種整理ファイルに入れ替えるという。

 目からウロコのアイデアがたっぷりで、読後には家を片づけたくなる。 (集英社 726円)

「若葉荘の暮らし」畑野智美著

「若葉荘の暮らし」畑野智美著

 小さな洋食屋で働くミチルは、40歳を迎えたばかりの就職氷河期世代。アルバイトではあるものの、職場の人にも恵まれ、生活を維持することはできていたのだが、感染症が蔓延して緊急事態宣言が発令されたことで状況が一変。収入が激減したばかりか、愛着のあった職場が存続できるかどうかという事態に見舞われた。追い詰められたミチルは、少しでも生活費を抑えようと引っ越しを考え始める。

 受け入れてくれたのは40歳以上独身女性限定のシェアハウス「若葉荘」。事情を抱える個性豊かな女性たちが、それぞれのやり方で生きる様子を間近に見るなかで、ミチルに変化が起こり始める。

 社会で圧倒的に不利な立場に置かれている女性たちがシェアハウスという住まいを通して立ち上がる様子を描いた応援の物語だ。 (小学館 902円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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