「絵本戦争 禁書されるアメリカの未来」堂本かおる著
「絵本戦争 禁書されるアメリカの未来」堂本かおる著
先頃、トランプ米大統領がハーバード大学の外国人留学生の割合を15%ほどに制限するべきだという移民排斥論を展開し物議を醸している。
このほかにも、性別は男女の2つのみとすると述べるなど、現在、世界各地域で進む多様性を認める方向とは正反対の動きを見せている。問題なのは、米国内にこうした動きを支持する層が確実にいて、特異な大統領の独断と偏見によるものだと切って捨てられないことだ。本書は絵本の禁書という観点から、現代米国の多様性をめぐる文化対立をあぶり出している。
コロナ禍中の2021年、フロリダ州で長期の学校閉鎖やマスク着用は政府や学校が決めるものではなく「親の権利」だと主張するグループが立ち上がる。同グループは同時に、学校現場にある黒人史やLGBTQなどを扱った本を排除するための禁書活動を開始した。例えば、学校で黒人史を教わった白人の子どもが「私は悪人なの?」と罪悪感を抱くからというのがその理由。この運動はその後全国に広まり、23~24学校年度に4000冊を超える本が禁書となった。
本書では、禁書指定を受けた絵本を中心に、約100冊を取り上げ、黒人/LGBTQ/女性/障害/ラティーノ・ヒスパニック/アジア系/イスラム教徒/アメリカ先住民──の8テーマにわたって、登場人物や物語を紹介しながら、なぜ禁書にされたのかを解き明かしている。取り上げられた絵本の多くは、マイノリティーであるがゆえに差別を受けたり苦労を強いられていることが自らの経験から真摯に描かれており、なぜ禁書とされるのか首をかしげざるを得ない。
しかし個々の紹介文を読むだけでも、これまでの米国史の中でいかにマイノリティーたちが、いわれなき差別と偏見にさらされてきたかが理解され、攻勢を強める保守右派をはね返す多様性の分厚い壁が、確固としてあることを示してもいる。 〈狸〉
(太田出版 2970円)