SNSに一石投じる 下重暁子さん「孤独とは自分を知ること」

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 SNSでつながっていないと不安でしょうがない人が増えている。「孤独」を恐れ、群れていなければ、心配でしょうがない。そんな異様な社会に対して、「孤独こそ人生を豊かにする」と一石を投じたのがこの人、エッセイストの下重暁子さんだ。幻冬舎新書の「極上の孤独」は販売2カ月で27万部の大ヒット。孤独とは? 老いとは? 死に方とは? 孤独の達人に聞いた。

  ――「孤独」という言葉に注目し、著書を出したきっかけは何だったのでしょう。

 昨年ニュースになった「座間9遺体事件」が、筆を執るきっかけのひとつでした。今や、スマホなどを使えば誰とでも簡単につながれる世の中です。事件の被害者の女性たちはSNSを通じて犯人に「死にたい」とメッセージを送りましたが、本当に「死にたい」と思っていた人はいなかったと報じられています。結局、被害者らは「寂しい」と感じて誰かに話を聞いてもらいたかっただけではないでしょうか。

  ――「寂しい」、つまり「孤独」ということですよね。

「寂しい」というのは単なる感情でしょう。いっときの感情は、ひとりで映画を見に行ったり、好きな物を食べたりすることで解決するかもしれませんよね。「孤独」は覚悟です。独りで自分自身と向き合い、「自分はどんな人間か」と深く考えること。事件の被害者たちは、ネットで知り合っただけの人物に相談する前に、自分と向き合い、自ら知る努力をしたのでしょうか。もっと自分に興味を持たないとダメだと思います。誰しも、自らが気付いていない自分を持っているものです。気付いていない自分としっかり向き合い、対話することで、少しずつ「自分がどんな人間か」ということが分かってくる。それができれば、自分自身を大事にすることができます。これが「孤独」です。皆、他人にばかり興味を持ち、スマホなどを通じて広くつながろうとしている。つながりから少しでも疎外されると、「寂しい」と感じるのでしょう。

  ――通勤電車の中でも、皆スマホを凝視しています。多くはSNSでやりとりしている。誰かとつながっていないと心配という風潮です。

 電車の中の風景は異様ですし、病的ですよ。ネットで何か調べるというのなら分かりますが、やはり皆SNSでやりとりしていますよね。私も「LINE」はやりますけど、友達は一番大事な3人だけです。LINEなどでつながり出したら、数限りなくつながってしまいます。人間がストレスを感じる一番の原因は「人との関係」。付き合いを広げれば広げるほどストレスは増すものです。

■日本人は個が育たず政府も個を消そうとする

  ――「独居老人」という言葉に象徴されるように、「孤独」には「老い」というテーマが避けられません。著書でも触れられていますが、超高齢化社会への政府の対応をどう評価されますか。

 国がやることは、まず疑ってみなければいけません。例えば、「3世代同居」を推進する政策です。おじいちゃん、おばあちゃんは孫と一緒に暮らせて幸せで面倒も見てくれるだろう、なんて考えるのはとんでもない。戦前多かった3世代同居がなぜなくなったかというと、あの濃密な人間関係に耐えられなくなったからです。代表的なのは嫁姑関係ですが、それを解消すべく核家族化が進んだ。今さら「元に戻す」というのは理解しがたいですね。

  ――安倍政権は「人生100年時代構想」や「1億総活躍」を掲げ、お年寄りにも生涯学習などを推奨しています。お年寄りも働ける社会を目指すといいますが、看板だけという印象でいまひとつピンときません。

 ピンとこないというより、そんなことを「お上」から押し付けられる必要はありません。年をとって自ら選択し、学校に行って勉強する。それこそが生涯学習でしょう。国から言われることではありません。

  ――生き方にまで政府が介入している。

 本当に冗談じゃありませんよ。ただ、日本人もそれに従う「いい国民」なんです。それは、各人の「個」が育っていないからでしょう。政府の側も「個」を消そうとしています。

  ――どういうことでしょう。

 自民党は改憲案で、最も重要な憲法13条に手を付けようとしています。今の条文にある「個人の尊厳」を「人の尊厳」に変えようとしているのです。「個人」とは一人一人違う個性を持った人間のこと。しかし、「人」は大多数のことです。つまり「個人」は必要がなく「人」を家族や組織という集団でまとめたい。そうすれば、政府は簡単に国民に言うことを聞かせることができる。

老いるとは個性的になること

  ――結局、今の政府は「お年寄りは働いて下さい」などと言い、財政のことしか考えていないようにみえます。働き続けることが幸せなのか。

 年寄りほど、時間に余裕があって自分と向き合える人はいませんよ。現役時代は毎日会社に行って仕事をしなければいけませんし、小さい子供の面倒も見なければならない。自分が好きなものは何なのかとじっくり考える暇がなく、仮に見つかっていても実行する時間がなかった。年をとり、豊かな時間を獲得すれば、さまざまなことが実行できる。幸せなことだと思います。

  ――それが「個」を磨くということですね。

 私は、つれあい(夫)の母親が100歳まで施設にいて、時々見舞いに行っていました。彼女はいつも自室に独りでしたが、多くの他の人は介護士に呼び出され集合すると、お歌を歌わされていた。童謡ですよ。あとは塗り絵です。好きな絵を描かせるなら分かりますが、塗り絵は人が描いたものをなぞるだけ。結局、施設も先ほどの憲法13条の話ではありませんが、「同じ年寄り」をつくりたいのです。その方が管理しやすく、費用もかかりませんから。予算が厳しく効率よく管理したいのでしょうが、年をとるということは「効率」とは無関係になるということでもあるのです。

  ――政府も社会保障や介護、医療についてコスト面ばかり話題にする。まるで老人は生きていること自体が「悪」と言わんばかりです。

 年を重ねるということは、個性的になるということで、ちっとも恥ずかしいことではありません。年金など、若い人に負担をかけてしまうと考える必要もない。しっかりと自分と向き合うことで、最低限の経済的自立と精神的自立をつくり上げることです。人生の最期まで自分らしく自由に生きることができれば、人に迷惑をかけることもありません。

  ――世間では孤独死などが社会問題と捉えられています。「死に方」について、心配している人も多いと思います。

 それは、心配しても仕方がない面があります。突然、どこかで倒れ、野垂れ死んでしまうかもしれませんから。ただ、その時のために自分の最期の始末をする最低限のお金と、始末をしてくれる人は必要だと思います。

  ――「愛する家族に囲まれて」というのが、「幸せな死に方」と世間では考えられています。

 私にはつれあいしかいませんし、囲んでくれる多くの家族はいません。野垂れ死んだっていいと思っています。先日、作家の五木寛之さんとも話したのですが、ホームレスのような人の方が豊かな死を迎えられるのではないかなあと。彼らはいつ死が訪れるか分からないという感覚が常にある。死の危険を常に意識するということは、自分の死と向き合っているということ。人間は生まれた時も死ぬ時も独り。当人が満足して死を迎えられるかが重要です。

  ――死に至るまで、自分と向き合う?

「死」について扱った海外の映画や書籍の題名が、“無難”な日本語に直されるケースをたびたび見てきました。日本人は死を正面から見ることを避ける傾向にある。怖いのは当たり前ですが、見るべきものは見なきゃいけない。孤独でなければ、直視できません。自分自身と対話できなければ、自分の死なんて分かりませんよ。

 (聞き手=本紙・小幡元太)

▽しもじゅう・あきこ 1936年生まれ。早大教育学部国語国文学科卒業。NHKでアナウンサーとして活躍後、フリーに転身。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。ジャンルはエッセー、評論、ノンフィクションなど。「家族という病」「鋼の女―最後の瞽女・小林ハル」など著書多数。日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長を務める。

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