米軍移転問題に揺れる鹿児島・西之表 八板俊輔市長に聞く

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八板俊輔氏(鹿児島県西之表市長)

 鹿児島県・種子島の北部を占める西之表市が無人島の行く末をめぐって揺れている。米軍空母艦載機による離着陸訓練(FCLP)の移転候補地の馬毛島だ。一昨年の買収劇は菅首相肝いりの「スガ案件」と呼ばれ、160億円もの血税が投入された。政府算定評価額の3倍超えだ。急展開した迷惑施設の建設計画に地元の賛否は割れる。市長は昨年11月、岸防衛相に「同意できない」と通告したが、対抗策はあるのか。話を聞いた。

■地域分断は絶対にさせない

 ――種子島の西約10キロに位置する馬毛島買収の起点は、日米両政府による2011年の訓練移転候補地の合意です。艦載機部隊が配備されている米軍岩国基地(山口県)から現在FCLPを実施している硫黄島は約1400キロと遠い。馬毛島は約400キロで格好の立地との理由です。トランプ政権の圧力に屈した政府は自衛隊基地整備を前面に押し出し、一気に動いた。一方、住民グループは約30万人分の反対署名を集め、防衛省に提出。西之表市民の人口の4割に当たる6000人超も署名しました。市長もFCLP移転反対を訴えて17年に初当選しましたね。

 私は市長になってからは反対とは言っておらず、昨年10月に「同意できない」と表明しました。西之表市民には賛成、反対だけでなく、どちらでもない立場の人たちがいますし、市長はすべての市民の代表です。私が市長として反対と発言すると、地域やコミュニティーの分断をあおることになります。実際に伝統行事ができなくなったりもした。馬毛島を守ることは市長選に出る大きな理由でしたが、市長の職というのは人口減少などあらゆる問題に取り組む覚悟がないとできません。米軍基地や原発、公共事業など、ひとつの社会問題が地域を分断する事例をこれまでいくつも見てきました。種子島では、それを絶対にさせたくないんです。反対と明言しないことでマイナスはありましたが、守るべきは地域社会なんです。防衛省の人たちは仕事だから基地をつくろうとするのはしょうがないが、それで地域を分断してほしくないのです。

 ――それでは「同意できない」とはどういう意図なのでしょうか。

「賛成」「反対」は誰でも言えますが、「同意できない」は地元の当事者しか使えない言葉です。賛成派の意見も聞いていますし、防衛省に行って施設をつくりたいと話す大臣に質問し、防衛省から回答ももらいました。その上で私は同意できないと表明しました。それは反対より重く、強いのです。賛成、反対、いずれの立場の市民も米軍施設建設に疑問を持っています。私は防衛省とやりとりをして言い分を聞いてきましたが、きちんと答えません。

 ――どのようにですか。

 防衛省は地元の理解がなければ建設は進めないと言う。しかし、地元の理解を得たことを、どのように判断するのかを明確に答えない。市民の質問に答えるため、環境アセスメントが必要だとも言います。私はその論理は受け付けません。このような状況で同意はできない。つまり「これ以上、計画を進めるな」と防衛省に言っているのです。反対か賛成かの言い方では、反対ということです。 

 ――防衛省による海上のボーリング調査に、地元の種子島漁協は同意していますね。

 市長権限でやめろとは言えない。一番の当事者である漁業者の代表組織の判断です。漁協はボーリング調査をしないと基地の影響がわからないと同意し、鹿児島県知事が許可をしたのですが、調査自体が漁場に影響を与えます。

戦後初の「生地」米軍に差し出すを重大性

 ――FCLP移転の賛成・容認派はどういう理由で受け入れるとしているのですか?

 経済の問題が大きい。基地経済の効果を期待しているのです。基地ができれば自衛隊員が種子島に100人から200人移住するといわれています。一時的には米軍再編交付金も出ます。しかし、再編交付金が出ることで、出なくなる交付金もある。その割合が多くなれば基地依存から抜け出せなくもなります。それよりも島の資源を生かして、持続可能な社会の構築に動いたほうが底堅いものになると思います。

 ――受け入れ派は自衛隊基地だと強調していますが、米軍のためなのは疑いようがありません。

 日本国として、独立国として、この話を突き詰めると、米軍に土地を提供するということなんです。馬毛島のようなまっさらな土地を防衛省は「生地」と呼んでいます。戦後、「生地」に米軍施設をつくったことがあるのかを防衛省に確認したところ、ありませんでした。すべて自衛隊施設の中でした。馬毛島に米軍施設をつくることの重大性に国民はまだ気づいていない。日本政府はそれをわかっていて、自衛隊ならいいじゃないかと強調する。占領時代の日米行政協定が日米地位協定になりましたが、米軍の権限は温存され、実質的に変わっていない。日本は植民地なんです。

 ――馬毛島はどうあるべきだとお考えですか。

 就任直後に利活用計画を出し、それに沿って努力しています。島を知ってもらうためです。あの島には弥生時代から歴史があり、未解明なことが多いままなので市史編纂を始めました。また、子供たちを島に連れて行っています。昔は卒業記念に島に行ったり自由に往来していたのですが、それができなくなっている。無人島になって40年で、市民にも、どういう島か知らない人が増えています。自分は関係ないし、国の役に立つなら基地をつくってもいいじゃないかと考えても無理もない。知ることにはプラスとマイナスがあります。ただ、知っていれば簡単にはイエスとは言わないはずです。私が馬毛島に渡航した体験を踏まえてそう思います。

 ――国が地権者の立石建設側から馬毛島を巨額買収したことをどう思いますか。

 国は、国民が納得する税金の使い方をしないと。一方、民間の側は、経費を少なくして収入利益を得るのは普通のことでしょう。

 ――馬毛島に初めて渡航したのはいつですか。

 小さい頃から馬毛島は港から毎日見ていたのですが、行ったことはなかったんです。石油備蓄基地だ、使用済み核燃料保管施設だ、米軍基地だと次々に持ち上がる島を港から見て胸が痛んでいました。それで、退職してフリーになったときに渡りました。

 ――当時は民間企業が大部分を所有していました。

 上陸して、改めて島に米軍施設などつくらせちゃいけないと思いました。それで「馬毛島漂流」という本を書きました。島に行っただけだと本にはならないけど、帰りに漂流もどきをしたことが物語になり、本になった(苦笑い)。ある漁師に本を見せたら、「俺も漂流したから、おまえは漂流の後輩だ。船もタダでやる」とも言われた。私は自分の操縦でポルトガルに行きたいと本気で思っていて1級船舶免許も取得しました。だけど、その船は別の方が譲り受けられたそうです。

 ――馬毛島はどんな場所ですか。

 5月初めの八十八夜から7月までトビウオやアラ(クエ)漁があります。ちょうど産卵期なんです。昔は島のトーチカからトビウオを見つけたら漁船に旗で合図を送ったようです。周囲12キロの東シナ海はいまでも巨大な漁場です。島の樹木の葉が海に流れ、プランクトンがつき、それをキビナゴなど小魚が食べ、カツオなど大きな魚もやって来る。水イカやトコブシも取れる。鹿児島だけでなく宮崎の漁船団も来ます。お相撲さんの間でも九州場所は人気だそうです。ちゃんこ鍋にアラが入るからです。だけど、いま漁師もどんどん減っています。漁港も整備し、漁業を持続可能にしないといけない。私はそれをやりたいんです。

 ――再選に挑む市長選(24日告示、31日投開票)が迫っています。

 まず、西之表市にとって一番大事な漁業や農業などを商業や観光の軸に据えるということ。高齢者が多いため人口減少はありますが、最近では南西諸島へUターンする若者が増えているという調査結果もあります。仕事がないと言われていますが、あるんです。求職と求人にミスマッチがあるんです。東京にあるようなものはないですが、離島はカネがかからないし、食べ物をもらったり、食べようと思えば食べていけるんです。島の食料自給率は280%です。コロナ禍をきっかけに移住も受け入れていきたい。昔から島は移住者の受け皿になってきました。しかし、米軍施設ができれば出ていく人もいることを考えると、できると失うもののほうが大きい。防衛省に早く米軍施設をあきらめてもらわないと何も始まりません。

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

▽やいた・しゅんすけ 1953年、鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。早大政経学部卒業後、朝日新聞社入社。社会部記者。鉄砲伝来450周年取材でポルトガルに派遣。沖縄も15年以上担当。熊本総局長などを経て、12年に退職して帰郷。17年から現職。著書に「馬毛島漂流」(石風社)。

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