大林素子さん 日立を突如解雇され伊セリエAで再びバレーを

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大林素子さん(53歳/スポーツキャスター、タレント)

 元バレーボールの女子日本代表選手で、解説やバラエティーでもお馴染みのスポーツキャスターでタレントの大林素子さん。「その瞬間」は実業団のチームを解雇されたからこそ実現した、日本人初のイタリア・セリエAでのプレーの日!

  ◇  ◇  ◇

 子供の頃は将来、歌手や女優を目指したかったんです。でも、イジメにあって自殺を考えたり、引きこもっていたりした時期もあり、そんなつらい小学4年の時にアニメ「アタック№1」を見て、バレーボール選手として五輪に行くことが夢になりました。

■メダルが取れなかったのを戦犯のように感じていた

 実業団の選手になってから7、8年で代表選手から五輪出場へと、順調といえば順調だったのですが、1964年東京大会の「東洋の魔女」から日本女子は強かったのに、私が出場した88年ソウルでも、92年バルセロナでもメダルが取れず、世界で勝つことの難しさを知りました。エースアタッカーだったので、「私が打ち勝っていればメダルを取れたかも……」と自分を戦犯のように感じて、その思いをずっと引きずっていました。

 その後のバレーボールのプロ化騒動では、人生最大のイヤな瞬間を経験しました。94年11月のことです。

 Vリーグの最初の年はプロ化を目指してのスタートだったので、日立所属で代表選手も兼ねていた私たち9人は、契約選手であっても嘱託社員というような変則な形ではなく、プロ契約を求めたんです。お金の問題ではなく立場を変えてほしいと。無理なら、プロチームを発足させる予定の会社へ移るから辞めさせてほしいと辞表を提出しました。代表選手の私たちがプロ化するバレー界をリードしていく必要があるんじゃないかとも思いましたし。

 でも、「Vリーグの初年度が終わったら考えるから、今年のリーグは出てくれ」と会社から言われたので、辞表を取り下げたんです。

■「日立の選手として頑張ります!」とあいさつした翌日に退職処分

 それなのに、直後に退職処分という形で、会社側から契約を切られました。私がVリーグ発足パーティーの場で「日立の選手として頑張ります!」としゃべった翌日ですよ。驚くべきことでした。

 私と吉原知子だけが会社に呼ばれ、退職処分が書かれた紙一枚を渡されて「今日中に出ていってください」と言われ、反論の余地もなく……。あの時はまるでドラマみたいでした(笑い)。キャプテンと副キャプテンの私たち2人だけを切って他のメンバーは残すと。

 会社としては選手に辞められるのは、体裁が悪かったんでしょうね。私たちも口約束だけだったから、甘かった部分はありますが。その時は本当に社会の厳しさを知りました。でも、そんな出来事があったからこそ後々、人生最高の瞬間を迎えられたんです!

「イタリアでバレーしようよ」と提案され

 解雇された翌日は私一人がスポーツ新聞の1面を飾ってしまい、皮肉なことに、バレーではかなわなかった夢が実現しちゃった(笑い)。

 1週間はマスコミが家の周りにいまして外出できませんでした。1週間も練習を休むなんてバレー人生で一度もなかったので、吉原と「体がなまっちゃうね」と話し合い、2人でランニングに出かけたり母校に行って体を動かしたりしました。

 そのうち「チームどうするの?」といろんな方から心配されるようになり、ちょっと前にイタリアへ行かれた三浦知良さんの移籍などをマネジメントされている会社の社長さんから「イタリアでバレーしようよ」と提案されました。

 野茂英雄さんがメジャーに行く前ですから、エージェントという役割がまだ日本では定着してなくて、コーディネートという形でしたかね。

 私はセリエA入りを提案された瞬間に即決しました。

 すでにシーズンは始まっていたけど、外国人が辞めたアンコーナというチームに吉原と入りました。ただ辞めたのは1人だったので、外国人枠の関係で吉原はすぐに別のチームへ移籍しました。

 セリエAは各国からいい選手が集まるリーグですけど、イタリア自体はまだ強くなかったこともあり、日本人選手は即戦力として期待されました。ただ、その分、活躍できないとすぐ解雇されてしまう。野球の助っ人外国人と同じですね。

 最初の試合の瞬間はよく覚えてます。解雇された身だったから、バレーができるだけで幸せだ! と感じてました。

■「オオバヤシ!」のヤジを「人気ある!」と勘違い

「オオバヤシ!」「オオバヤシ!」と客席から名前を連呼されてたので、「私、人気ある!」と思っていたら、後で通訳の方に聞くと、アウェーだったので、「オオバヤシをつぶせ」「オオバヤシ日本に帰れ」とかいうヤジだったというね(笑い)。言葉がわからなくてラッキーでした。

 でも、そんなヤジも言葉が通じないことも小さなことで、バレーができれば幸せでした。

 五輪のメダリストの多くがセリエAに集結していて、その技術を自国の代表チームに持ち帰るから、私もイタリアのトップリーグでプレッシャーを感じて戦って得たことは本当に大きかった。もし日立を解雇されず、日本の中だけでバレーをやっていたら経験できなかったことですからね。その経験がその後の活動に生きてます!

(聞き手=松野大介)

∇おおばやし・もとこ 67年6月、東京都出身。86年に実業団の日立に入団してアタッカーとして活躍。ソウル、バルセロナ、アトランタと3大会連続で日本代表として五輪に出場。97年に引退後、スポーツキャスターに。タレント、女優としても活躍中。 

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